2016 Fiscal Year Research-status Report
セルフ・アジュバント機能を持つ、革新的ワクチンプラットフォーム技術の確立
Project/Area Number |
26460560
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
松井 政則 埼玉医科大学, 医学部, 准教授 (50199741)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ワクチン / ウイルス様粒子 / ナノキャリア / アジュバント / ドラッグデリバリー / 細胞傷害性T細胞 / 抗原提示関連分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
SV40ウイルスから作製したウイルス様粒子 (VLP: virus-like particle) の表面に、Influenza A virusのmatrix protein 由来HLA-A2拘束性CTL エピトープを導入して、HLA-A2 トランスジェニックマウスに免疫すると効率よくインフルエンザ特異的 CTLが誘導できる。その際、免疫賦活作用のあるアジュバントを加える必要がない。すなわち、SV40-VLP自体に、自然免疫系を活性化するセルフ・アジュバント機能があると考えられる。本研究の主要な目的は、このセルフ・アジュバント機能のメカニズムを詳細に解析し、新しいワクチンプラットフォームを開発するための研究基盤を確立することである。昨年度までに、VLPで刺激された細胞において、遺伝子の網羅的解析から、細胞表面分子やサイトカイン、抗原提示関連分子において発現量に変化がみられることが明らかになった。また、その発現量の変化を、フローサイトメトリーやELISA法で確認した。また、さらなる解析のためにゲノム編集の実験系を確立した。 本研究年度では、VLP刺激で発現量に変化がみられた一連の細胞内抗原提示関連分子に焦点を当て、それら分子の相互作用をさまざまな分子生物学的手法で検討した。そして、ゲノム編集技術を用いてそれら分子のゲノム遺伝子をノックアウトした細胞株の作製を試みた。また、HLA型に制約されないプラットフォームを構築するため、抗原タンパク質を組み込んだVLPでMHCの異なるマウスに免疫し、CTLを誘導させた。さらに、粘膜ワクチンに応用するため、経鼻免疫で呼吸器粘膜にCTLが誘導できることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題において最も重要な点は、VLP刺激によって自然免疫を活性化するセルフ・アジュバント機能のメカニズムを解析・解明することにより、新しいワクチンプラットフォームを開発するための研究基盤を確立することである。平成26~27年度において、VLPで刺激されたことにより、いくつかの細胞表面分子やサイトカイン、抗原提示関連分子の発現量に変化がみられることが明らかになった。そして、さらなる解析のためにゲノム編集の実験系を確立した。当初予期していなかったことは、一連の抗原提示関連分子が検出されたことである。これらの分子は、抗原特異的CTLの誘導に極めて重要な分子であり、VLPのセルフ・アジュバント機構に密接に関連している可能性が高い。そこで、これらの分子の解析に焦点を当て、さまざまな分子生物学的手法で検討している。さらに、ゲノム編集技術を用いてそれら分子のゲノム遺伝子をノックアウトした細胞株の作製を試みている。細胞株の作製には、もう少し時間が必要である。また、予定通り、HLA型に制約されないプラットフォームを構築するため、抗原タンパク質を組み込んだVLPを使って、CTL誘導を検討した。また、粘膜ワクチンへ応用するために、マウスへ経鼻免疫で呼吸器粘膜にCTLが誘導できることを明らかにした。以上のように、抗原提示関連分子の関与という当初予期していなかった結果が出始めているが、他の計画に関しては研究計画の通り進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、VLP刺激で発現量の変化がみられた一連の抗原提示関連分子のセルフ・アジュバント機能における役割を詳細に解析する予定である。具体的には、ゲノム編集技術を用いて、それらのゲノム遺伝子をノックアウトさせた細胞を作製する。一連の遺伝子をノックアウトするため、細胞株の作製にかなり時間がかかると思われる。その細胞に、VLPを作用させ、サイトカインの分泌や活性化表面分子マーカーを調べ、VLPのセルフ・アジュバントに関わっている分子を同定する。一連の抗原提示関連分子は、小胞体内で相互作用し複合体を形成していることがわかっており、また、この複合体形成が抗原特異的CTLを誘導する抗原提示に不可欠であることが知られている。正常細胞及びノックアウト細胞を用いて、VLPで刺激した細胞と刺激していない細胞からcell lysateを作製し、各分子を抗体で共免疫沈降して、他の分子が作用して複合体を作っているかどうかウエスタンブロティングで測定する。 また、粘膜ワクチンへの応用に展開するためにも、粘膜免疫の研究をさらに行うつもりである。経鼻接種で行えるワクチンが開発できれば、きわめて便利である。マウスに経鼻接種することによって、さまざまな粘膜組織・臓器に、抗原特異的CTLを誘導できるかどうかを詳細に検討する。さらに、インフルエンザだけでなく、他のウイルス感染症にも応用できるように、HCV HIV HPV等のウイルス由来のCTLエピトープを組み込んだVLPを作製し、それぞれのウイルスに特異的なCTLが誘導できることをHLA-A2, HLA-A24トランスジェニックマウスを使って明らかにする。
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Causes of Carryover |
ゲノム編集技術や抗原提示関連分子の各種抗体に多くの経費が必要であったが、ノックアウト細胞はまだ作製中であり、それを使った実験がまだ行えなかったことが、次年度使用額が生じた主な理由である。また、国内学会旅費に教室経費を使用したことも、差額が生じた理由としてあげられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度においては、抗原提示関連分子の分子生物学的解析に必要な、各種抗体やSDS-PAGE電気泳動に関係する試薬に研究経費を使用する必要がある。また、ゲノム編集技術で特定遺伝子をノックアウトした細胞の作製に必要な、さまざまな酵素などの遺伝子工学用試薬、タンパク発現を解析するためのウエスタンブロティング関連試薬、細胞へのtransfection試薬、細胞培養関連試薬、培地、牛胎児血清、プラスチック器具等に研究費を使用する予定である。
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