2015 Fiscal Year Research-status Report
脳死・臓器移植における再移植問題に関する調査~バイオエシックスと医療人類学から
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26460587
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
保岡 啓子 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (80463735)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 博美 北海道大学, -, 名誉教授 (60142931)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 医療社会学 / バイオエシックス / 医療人類学 / 移植医療 / ナラティヴ |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)日本における再移植・再々移植の実態調査 平成26年度の調査結果を踏まえて、更なる文献研究を行って実態調査の調査計画書の微調整及びインタビュー調査ガイドを再作成した。特に、バイオエシックスの観点から批判的検討を行いつつも人類学的視点で現状を把握し、得られたデータを相対化することを射程にいれて再検討を行うことに注意を払った。しかし、生体ドナー(親族からの臓器提供)が中心の実態調査のインフォーマントを見出すことは困難んを極め現時点まで2例に留まっている。現時点での調査結果ははインタビュー調査に応じてくれる再移植者の家族と、私的なこととして内在化してしまう家族とに二分され、得られたデータは主観的・感情的な色彩を帯び、客観性に欠くという結果を招き、今後のデータ分析の方法論の選定が重要課題である。 (2)日本の再移植者のインタビュー調査 移植者スポーツ大会(広島県)で調査を行った結果、移植臓器によって再移植の捉え方が全く異なることが判明した。特に腎臓移植は、再移植が通常医療化し、先行的腎移植へシフトしつつあり、その期待が高まっていた。同時に透析医療の40年限界の壁も先行的腎移植を後押ししていた。再移植に伴う問題は移植臓器によって異なることが更に顕在化しつつあるが、この調査結果は極めて需要であり、今後の調査計画の微調整が不可欠な問題である。 (3)日本の先行的腎移植・再移植の調査結果の発表 アメリカ人類学会(2015年11月:デンバー)で暫定的な調査結果を発表した。先行的腎移植と生体移植の日本の特徴である親族間ドナーに依存した生体間移植の増加に関して、日本のドナーについても言及した発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)平成27年度の調査進捗状況 進捗状況は概ね予定通であるが、調査を進めてゆく上で想定外の調査結果が平成26年度よりも多く、調査の微調整を迫られた。しかし、人類学では想定外の知見が得ることを期待しながら調査を進めるので、ほぼ順調に調査が進んでいると判断する。しかし、新しい予期せぬ知見に柔軟に対応する調査計画の微調整に、それ相当の準備や調整が必要とされることは調査準備に時間を費やす結果を招き、調査と準備のバランス取りが困難である。 2)想定外の新たな知見 先行的移植・再移植が招く生体移植の増加が「命の贈りもの」という移植医療の根本原理を揺るがす事態を招いている。移植医療を十把一絡げに調査することは難しく危険を伴うという知見を平成26年に得たが、平成27年度は、先行的腎移植の成績が急速に伸び、人工透析導入歴のあるレシピエントよりも先行的腎移植レシピエントの方が再移植のリスクは少ないという新たな知見を得た。しかし、異なる臓器のレシピエント間の紐帯を希薄にし、ドナー家族とレシピエント間の乖離が助長されている。 3)学際的な移植医療研究に対応しうる研究計画 移植医療は社会性の高い医療であり、ドナーの臓器提供なしには成り立たない医療であるが、社会的コンセンサスは再移植や先行的腎移植の急成長で益々難しくなってきていることが明らかになった。日進月歩で進んでゆく先端医療の移植医療の当事者に通底する医療の倫理的側面と文化的側面にスポットライトを当てた研究の進め方はおおむね順調ではあるが、更に挑戦的な色彩を帯びてきていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度と平成27年度の調査結果を踏まえて、平成28年度の研究推進策の微調整をし、最終年度のより効果的な研究へとつなげたいと考える。 1)日本における再移植・再々移植に関する実証データ分析:平成26年度と平成27年度の調査の結果、移植臓器の種類によって、①再移植が必須だが実現不可能な移植医療(心臓等)、②再移植が不必要な移植医療(肝臓)③再移植より先行的移植へシフトしつつある移植医療(腎臓)に分類可能となった。各臓器別の実証データの収集に焦点を当てる。 2)日本における再移植・再々移植に関するナラティヴ調査のデータの収集及び分析:これまでのインタビュー調査は2例に留まっており、インフォーマントの著しい少なさが顕著である。①再移植を受けたことを隠すレシピエント:どのような要因が背景になるのかを考慮し、カジュアル・インタビュー調査に終始してでもインフォーマントと接触を試みる。②再移植に肯定的なレシピエント:可能な限りフォーマル・インタビュー調査を行いデータを得る。 3)日本における再移植と先行的腎移植に関する参与観察のデータ分析:(1)と(2)の調査結果に加え、日本の特殊性を調査するために再移植及び先行的腎移植にとってますます不可欠となってくる親族間の生体移植(生体ドナー)の帰属する社会の倫理的・文化的背景に着目しながら調査を進める。特に最近の傾向として若年層の移植への否定的な考え方を加味しつつ生体ドナーと生体レシピエントが生活を共にする親族間の生体移植の問題について日本と海外の比較考察を射程に入れた参与観察を外国人参加者が期待できる神戸の移植者スポーツ大会(2016年9月)で行う。
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Causes of Carryover |
①国内調査出張のキャンセルがあり、出張費を予定通り使用しなかった。 ②国際学会を2つ出席予定だったが、学会側の都合で一つしか開催されなかった為、学会出席ができず、予算を消化することができなかった。 ③調査協力者から調査のキャンセルが有り、予定通り謝金を使用しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
①平成28年度は昨年購入したノートパソコンに出張先でつかうルーターやコピー用紙やインク、ファイル、個人用シュレッター等の備品を購入予定。 ②フィールドワークや学会発表のための海外出張と国内出張費 ③調査協力者への謝金などを予定している。
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