2014 Fiscal Year Research-status Report
プラズマ刺激を感知する細胞機構の解明―プラズマ医療の推進に向けた分子基盤の確立―
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26460630
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Research Institution | Gifu Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
原 宏和 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (30305495)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
足立 哲夫 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (40137063)
神谷 哲朗 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (60453057)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プラズマ / 活性酸素 / 亜鉛 / 細胞死 |
Outline of Annual Research Achievements |
ラジカル、イオン、電子、光などの集合体であるプラズマを利用した「プラズマ医療」は、新しい治療法として期待されている医療分野である。止血や皮膚創傷に対するプラズマ照射の効果がin vivoおよびin vitroの実験系おいて認められており、すでに臨床応用されている治療もある。また、プラズマ照射によりがん細胞の選択的な細胞死が引き起こされることから、近年、がん治療の新しい治療法としても注目されている。プラズマ照射により生じるDNA切断や細胞死が抗酸化剤により抑制されることなどから、プラズマの細胞傷害作用の発現には活性酸素種(ROS)が重要な役割を担っていることが示唆されているが、その作用機序には不明な点が多い。 亜鉛(Zn2+)は生体内で鉄に次いで多い必須微量元素である。これまで、Zn2+は酵素の活性や転写因子などの構造維持に関与する分子と考えられてきたが、最近の研究から、Zn2+はカルシウム(Ca2+)と同様なシグナル伝達分子としてその重要性が認識されるようになった。ほとんどのZn2+は細胞内ではメタロチオネイン(MT)やジンクフィンガー構造を有するタンパク質のチオール基に結合した状態で存在している。しかし、ROSや活性窒素種(RNS)によりこれらタンパク質のチオール基が酸化修飾されると、タンパク質からZn2+が遊離し、遊離Zn2+はセカンドメッセンジャーとして機能する。この現象は「Znシグナル」と呼ばれている。 本研究では、プラズマという物理的刺激が細胞内でZnシグナルに変換された後、遊離Zn2+が細胞死の経路を活性化し、細胞死を誘導している可能性を生化学および細胞生物学的な手法を用いて検証した。その結果、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞において、プラズマ照射により細胞内遊離Zn2+が増加すること、この遊離Zn2+は細胞死を惹起することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、プラズマ照射により惹起される細胞死における細胞内Zn2+の関与をヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用いて検討した。細胞へのプラズマ照射には、細胞に直接照射する直接法と、無細胞系でプラズマを照射した培養液(plasma-activated medium;PAM)を用いる間接法がある。本研究では、PAMを使用した間接法を採用し、PAMの細胞傷害と細胞内Zn2+との関連を中心に解析した。 PAMによるSH-SY5Y細胞の細胞死は抗酸化剤N-アセチルシステインにより抑制されたことから、ROSの関与が考えられた。そこで、PAM誘導性細胞死に対するZn2+キレーターTPENの影響を検討したところ、TPEN存在下でPAM誘導性の細胞死は抑制された。また、PAMにより細胞内遊離Zn2+が増加することをZn2+蛍光プローブFluoZin-3を利用し確認した。さらに、PAMはPoly (ADP-ribose) polymerase 1(PARP-1)を活性化し、PARP-1の基質となる細胞内NAD+やエネルギー供給源であるATPを減少させることで、細胞内エネルギー障害による細胞死を惹起することを明らかにした。しかし、PARP-1阻害剤はPAM曝露後のZn2+の遊離を抑制しなかったことから、Zn2+は最も初期に起きる細胞応答であると考えられた。実際、TPENはPAMによるNAD+やATPの減少も抑制した。また、PAMはミトコンドリアにおけるROSの産生を亢進させたが、TPENはこの現象も抑制した。以上の結果から、PAMにより惹起される細胞死は、細胞内遊離Zn2+の増加により引き起こされるエネルギー産生障害に起因している可能性が示唆された。 以上の研究推進状況から判断し、申請者は実験計画がおおむね予定通り進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、以下の2点を中心に研究を実施する。 1.PAM誘導性細胞死におけるZn2+の作用-PARP-1の活性化機構- 本年度の研究から、PAMによる細胞応答の初期シグナルとしてZn2+の重要性が示された。また、PAMを曝露したとき、PARP-1の活性化に加え、MAPキナーゼ経路の活性化、Ca2+の細胞内流入などが惹起されることも確認しているが、これらの現象にZnシグナルがどのように関与しているかは未だ不明な点も多い。そこで、来年度は、特にPAMによるPARP-1の活性化と細胞内Zn2+の関連性を中心に解析する。PAMの曝露によりミトコンドリアから過剰なROS、特にスーパーオキシドが産生されることから、PAM曝露後の遊離Zn2+の増加がミトコンドリア由来のROS産生を介しPARP-1の活性化を促進しているのではないかと考えている。そこで、ミトコンドリアの役割を解明するために、ミトコンドリアを欠失させた細胞(rho0細胞)を作製し、PAMがPARP-1の活性化、Zn2+の遊離、ミトコンドリアROSの産生、NAD+の欠乏に及ぼす影響を細胞染色法、FluoZin3(Zn2+)やMitoSOX(ROS)を用いたイメージングにより解析する。 2.プラズマ照射が皮膚創傷に及ぼす影響 プラズマ照射により皮膚創傷治癒が促進されることが報告されている。一方、Zn2+欠乏が皮膚の状態を悪化させること、古くから皮膚の創傷治癒に亜鉛華軟膏が使われることなどから、皮膚創傷治癒過程におけるZn2+の重要性が指摘されている。近年、創傷治癒にZnトランスポーター(ZnT2)やZn受容体(GPR39)が関与していることも報告された。そこで、プラズマ照射による皮膚創傷治癒の分子機構を解明するため、PAM照射がケラチノサイト(HaCaT細胞)に及ぼす影響をこれらの遺伝子を中心に解析する。
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Causes of Carryover |
本年度は、申請者が所属している研究室において当初予定していたより多くの研究費を獲得することができた。本研究室では、酸化ストレスが主要テーマであることから、使用する試薬などは研究室共通のものも多く、本研究課題でしか使用しない試薬以外の多くの物品(試薬、器具)を共同購入することができた。それゆえ、当初計画していたほど本研究課題の研究費を使用する必要がなくなり、予算を次年度に繰り越すことができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
課題研究はおおむね順調に進んでいることから、最終年度に計画をしていたプラズマの皮膚創傷に対する効果に関する研究の予備検討の実施時期を早めることができるようになった。皮膚創傷に関する研究は、これまで本研究室で実施していない新たな研究領域であるため、本研究室が所有していない細胞や多くの抗体を新たに調達する必要がある。そこで、これらの試薬の購入に繰り越した予算を使用し、速やかに皮膚創傷に関する研究が開始できるように計画を若干変更した。
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Remarks |
http://www.gifu-pu.ac.jp/lab/rinyaku/
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Research Products
(6 results)