2015 Fiscal Year Research-status Report
PU.1抑制性標的遺伝子メタロチオネインの抗がん剤効果予測マーカーとしての役割
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26460685
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
高橋 伸一郎 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (40375069)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | メタロチオネイン / 抗がん剤 / 効果予測マーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者はこれまでに、骨髄球系造血に必須なPU.1が直接抑制性に制御する遺伝子として、多機能タンパク質メタロチオネイン(MT)を同定した。さらに、前トランス型レチノイン酸(ATRA)をNB4(急性前骨髄球性白血病)細胞に添加し、好中球へと分化誘導を試みると、MTの過剰発現下においては、NB4細胞の分化が強力に阻害されることを見出している。上記に述べた結果から、高齢者等に広く用いられる低用量抗がん剤を用いた分化誘導療法の予測マーカーとして、骨髄球系造血に必須なPU.1の発現量検討のみならず、MTの発現解析が有用である可能性が考えられる。平成26年度における本研究課題において、造血器腫瘍の治療において代表的な抗がん剤であるシタラビン(Ara-C)を投与したところ、予想通りMT過剰発現NB4細胞はコントロール細胞に比して、50%有効濃度が1.5~2.0倍程度上昇し、ある程度の薬剤耐性を有していることが判明した。平成27年度は、それ以外の抗癌剤について検討を行った。Ara-Cと同様、骨髄球系腫瘍でよく用いられる6メルカプトプリン(6MP)で検討したところ、驚くべきことに、MT過剰発現NB4細胞は、100~400μMの6MP添加後48時間で、むしろ増殖が最大180%程度亢進することが判明した。現在これ以外の抗癌剤も検討中である。さらに、Ara-C、6MPで認められる、これら耐性がどのような機序により制御されているかを明らかにするために、抗がん剤添加後の細胞より核・細胞質タンパク質を調製し、ウエスタンブロットを行い、細胞内DNA損傷応答経路の解析を行っているところである。まだ検証中ではあるが、同経路を中心的に制御する因子、ataxia teleangiectasia mutated (ATM)の発現異常がMT過剰発現NB4細胞においてみとめられることを明らかにしつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は同細胞が代表的な抗がん剤であるAraCに対して耐性があることを明らかにし、同耐性には異常なROSの消去作用によるものであることをみいだした。平成26年度の報告書に述べた通り、平成27年度も引き続き、MT過剰発現NB4細胞を主に使用し、解析を行った。その結果、6メルカプトプリン(6MP)で検討したところ、驚くべきことに、MT過剰発現NB4細胞は、低用量の6MPでむしろ増殖が亢進することが判明した。さらに細胞内DNA損傷応答経路の解析を行っている。まだ検証中ではあるが、同経路を中心的に制御する因子、ataxia teleangiectasia mutated (ATM)の発現異常がMT過剰発現NB4細胞においてみとめられることを明らかにしつつある。以上より、概ね順調な進展といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度に明らかにしつつある、ATMの発現異常について結論を出す。様々な条件で抗がん剤を添加し、この発現異常が共通に認められるかを検証する。今後は、抗がん剤添加後のATMを中心としたDNA損傷応答経路の異常を解析していく予定である。詳細なメカニズムが明らかになれば、MT過剰発現白血病における特異的かつ効果的な治療法が見つかる可能性が考えられる。 また、臨床検体解析に関しては、申請者の所属先が東北医科薬科大学に変更したため、新たな共同研究先を検討する必要が出た。東北医科薬科大学病院血液リウマチ科は正式開講が2年後となるため、本研究期間内に十分集積できる見通しが極めて厳しい。その分、培養細胞株を用いて詳細な基礎的検討を進めていく予定である。また、消化器外科、呼吸器外科、乳腺内分泌外科等の理解と協力が得られれば、固形腫瘍におけるMTの役割についても検討を進めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、引き続き極力無駄のない支出を心掛けたためである。また、試薬類は保管していた古いものの順から効率よく使ったことにより、最低限の支出で抑えることができた。また、臨床検体解析は、27年度までの共同研究先は、新規患者の受け入れ停止を継続していたため、新規検体が得られず、当該実験に係る費用の支出が引き続きなかった。また、中間報告として2015年アメリカ血液学会に関連する演題を応募したが、採択にいたらなかったため、学会発表経費は支出しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
申請者は、平成28年度から、医学部が新設された東北医科薬科大学医学部・病院臨床検査部に異動し、研究をスタートした。すでに病院臨床検査部にある機器、および申請者が持参した機器によりほとんどの実験を継続して行うことはできるが、下記の機器を28年度の科研費で購入し、研究環境を整備する予定である。(1)卓上CO2インキュベーター(定価44万円)、(2)ウエスタンブロット等ケミルミ検出カメラ Lumi Cube(定価40万円)(3)卓上型クリーンベンチ(定価17万円)、(3)マイクロプレート用ローター(定価29万円)(合計機器支出予定額約130万円)。また、さらに臨床各科との共同研究が進んだ場合、固形腫瘍におけるMT発現と抗癌剤効果について検討を行う可能性も視野に入れている。その際は、倫理委員会で承認が得られたのち、上記関連に関し検討を行う。その場合、組織細断機(約40万円)の追加購入も行う。
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