2014 Fiscal Year Research-status Report
オフセット鎮痛脳内機構に基づく慢性疼痛バイオマーカーの探索
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26460695
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
倉田 二郎 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 講師 (50349768)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 機能的磁気共鳴画像法 / オフセット鎮痛 / 内因性鎮痛機構 / 下行性疼痛抑制系 / 拡散テンソル画像法 / voxel-based morphometry / 安静時機能的磁気共鳴画像法 / 痛覚過敏 |
Outline of Annual Research Achievements |
予備実験として、温熱刺激装置PATHWAYを用いてオフセット鎮痛の心理物理研究を行った。27-49歳の健康な男女14人に対して、痛みスコア6の刺激(条件付け刺激)を基本として摂氏1度増加のパルスを5秒間与えた時の痛み知覚の変化をCOVASにて経時的に観察した。パルス前の条件付け刺激を5秒、15秒と変化させたところ、15秒の熱刺激により痛覚過敏を来したが、その後のオフセット鎮痛は共に約65%の強度で発生した。また、痛み刺激における温度上昇速度として6度/sと56度/s(CHEPSプローブ)を試したところ両者共に感覚順応を来さず、安定した痛み刺激を与えることが出来た。 以上から、PATHWAYによる痛みスコア6の温熱刺激は感覚順応を来さず、長時間刺激により痛覚過敏を引き起こした場合でも強いオフセット鎮痛効果を生み出すことが分かった。末梢性の痛覚過敏は、中枢からの下行性疼痛抑制系により相殺されることが示唆された。 次に、健康被験者3名、慢性疼痛患者13名をリクルートした。慢性疼痛の心理物理記述法としてマクギル疼痛質問票、painDETECT、Pain Catastrophizing Scale、Beck Depression Inventoryを採用し、各被験者においてこれらのスコアを全て記録した。さらに3テスラMRIスキャナーを用い、オフセット鎮痛fMRI、安静状態fMRI、拡散テンソル画像法、高解像度解剖画像法を施行した。 オフセット鎮痛fMRI時にはCOVASを用いてfMRI画像と同期した痛み感覚記録に成功した。慢性疼痛患者では健康被験者に比べ修飾されたオフセット鎮痛現象を確認し、この実験系の有効性が裏付けられた。MRI画像は頭部の動きやノイズが少ない良好な画像が得られ、安定した撮像技術を確立した。 現在、これらの画像解析結果と心理物理指標との相関分析に取りかかっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 本実験の前に、14人の健康被験者をリクルートして予備実験を行い、オフセット鎮痛現象の再現性を確認した。これにより、本実験の妥当性を確認し、痛み感覚の心理物理記録・解析技術を確立することができた。 2. 本来の実験プロトコールを施行するに際しては、1年間に16人の被験者をリクルートし、心理物理実験とMRI実験を共に完遂することが出来た。今後さらに多くの被験者を対象に実験を重ねるための体制を確立した。 3. 技術的にチャレンジングであり、困難が予想されたにも拘わらず、痛み刺激とMRI撮像との完全同期に成功し、心理物理および画像データの質が良好に確保されたことを確認した。放射線科技師との協力により「画像研究チーム」を発足し、リクルートした被験者から短時間で安定して画像データを得るシステムを確立した。 4. 13名もの慢性疼痛患者のリクルートに成功した。健康被験者は年齢・性別をマッチさせて集める。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 現在までに得られた心理物理・画像データの解析を進める。BrainVoyagerQXだけでなくSPMなど他の有力ソフトウェアの使用法に精通し、世界標準の脳画像データ解析法を確立する。 2. 慢性疼痛患者のリクルートをさらに進めると同時に、年齢・性別をマッチさせた健康被験者をリクルートし、充分な数の心理物理・脳画像データを収集する。 3. 安静時fMRIによる脳ネットワーク解析、拡散テンソル画像法による脳白質線維連絡解析、voxel-based morphometryによる脳灰白質密度解析の方法を実験室内で確立する。これにより、脳賦活fMRIだけでなく、脳機能・解剖の多角的な視点から慢性疼痛のメカニズムにアプローチすることが可能になる。 4. 他施設との共同研究により蓄積したMRIおよび心理物理データを併せて解析し、さらに多くの被験者数を獲得し、慢性疼痛患者に関するより普遍的な知見を探求する。
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Causes of Carryover |
(1) 画像解析用および統計解析用PCの増設を平成27年度に先送りした。(2) 画像解析ソフトウェアMatlabの1ライセンスの購入、BrainVoyagerQXライセンスの更新を先送りした。(3) MRI撮像費用・謝金を支払う手順の確立が遅れた。 以上の理由により、支出の遅れが生じました。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1) 研究用PCおよび周辺機器の増設を行う。(2) 画像解析ソフトウェアのライセンス増加により解析環境の改善を図る。(3) MRI撮像費用・謝金を科研費から支払う手順を確立する。 以上により、支出が遅れていた部分を補いながら、今年度の研究計画を進める所存です。
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Remarks |
MAA9とはThe 9th International Symposium on Memory and Awareness in Anesthesiaの略であり、研究者が会長として主催した。麻酔と意識と記憶に関する世界で唯一の国際学会であり、70名以上の参加者を集めた。英国の医学雑誌British Journal of Anaesthesiaに抄録集と論文集を掲載予定である(2015年6月)。
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Research Products
(25 results)