2014 Fiscal Year Research-status Report
下部食道括約筋における筋原性緊張調節機序の解明と新規食道アカラシア治療薬の開発
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26460940
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
伊原 栄吉 九州大学, 大学病院, 助教 (80612390)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 下部食道括約筋 / 筋原性筋緊張調節 / 食道アカラシア / 高解像度食道内圧検査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、食道アカラシアの新規治療法の開発を目差すため、ブタ下部食道括約筋 (LES)がbasal toneを維持する筋原性緊張調節機序(myogenic tone regulation)を、平滑筋細胞内シグナル伝達経路の観点から解明した。以下に研究実績を示す。 (1)基礎研究にて、筋原性緊張調節に対する細胞内カルシウム([Ca2+]i)の重要性:ブタLES輪走平滑筋条片で認めるbasal toneにジルチアゼムを投与すると[Ca2+]iの低下と伴った弛緩反応を認めた。L型カルシウムチャネルは、LES basal toneに関与することが判明した。また、細胞外液ナトリウム濃度を145mMから40mM (トリス置換)とすると、[Ca2+]iの上昇と伴った収縮反応を認めた。LES basal toneの維持に、Na+/Ca2+交換機転 (NCX)が重要な役割を果たす可能性が明らかとなった。さらに阻害剤を用いた実験結果にて、LES basal toneにおけるNCXの調節に、Gasotransmitterの1つである硫化水素が関与している可能性が示唆された。 (2)基礎研究にて、ブタLES筋緊張調節において、トリプシンがユニークな2層性収縮弛緩反応を引き起こすことを見いだし、その機序を明らかにした。トリプシンが引き起こす収縮反応にはRhoキナーゼが関与し、弛緩反応にはRhoキナーゼ、MAPキナーゼが関与することを解明した。 (3)臨床研究として、高解像度食道内圧検査を用いて、食道アカラシアを代表とする食道運動異常症の患者に対して、LES機能を評価した。その結果、ヒトLES機能と血清コレステロール値とに相関があることを見い出した。さらに、ある種のサイトカインの発現パターンとヒトLES機能とに関連性があることを見い出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
下部食道括約筋 (LES)の筋原性筋緊張調節の機序解明を目的として、交付申請書に従って、まずは細胞内カルシウム情報系の観点から、ブタLESにおける筋原性筋緊張調節 (myogenic tome regulation)の機序を明らかにした。現在までに、L型カルシウムチャネルの関与、Na+/Ca2+交換機転 (NCX)、硫化水素が重要な役割を果たすことを解明した。また、トリプシンが下部食道括約筋にユニークな2層性の重要な反応を引き起こすこを見い出し、その機序を解明し、英文原著論文として報告した。研究は、当初の計画どおりに進んでいると考える。さらに、高解像度食道内圧検査を用いた臨床的研究でも、ヒトLES機能障害の病態の解明の糸口となる研究結果が得られたため、研究計画はほぼ順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果にて、ブタ下部食道括約筋 (LES) の筋原性筋緊張調節に、L型カルシウムチャネル、Na+/Ca2+交換機転 (NCX)及び硫化水素が重要な役割を果たすことを明らかにした。ブタLES筋原性筋緊張調節におけるNCXの役割は、L型カルシウムチャネルと比較して大きいようである。すなわち、食道アカラシアの新規治療薬の開発には、NCXがターゲットとなる可能性がある。また、興味深いことに、NCXの制御に、gasotransmitterの一つである硫化水素が関与している可能性を示す実験結果を得た。今後は、これらの機序を薬理学的、生化学的手法を用いて、さらに解明していく方針である。必要に応じて、NCXのノックアウトマウスを作成し、LES筋緊張調節におけるNCXの役割の解明を目差す。さらに、高解像度食道内圧検査を用いた臨床研究では、さらに、食道アカラシアを代表とする食道運動異常症の患者に対するLES機能の評価を継続し、LES機能不全の病態を解明していく。
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Causes of Carryover |
平成26年度、研究に関する物品の購入は綿密に計画され実行されたが、19793円を残した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度に使いきれなかった19793円については、平成27年度の物品費として利用する予定である。
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