2014 Fiscal Year Research-status Report
健康成人のB型肝炎ワクチンに対する抗体獲得能に関わる宿主因子の研究
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26461027
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Research Institution | Research Institute, International Medical Center of Japan |
Principal Investigator |
村田 一素 独立行政法人国立国際医療研究センター, その他部局等, その他 (40345971)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | HBVワクチン / 抗体獲得不良 / 細胞内シグナル / 不顕性感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
感染リスクの高い医療従事者において、B型肝炎ウイルス (HBV)ワクチン投与が行われているが、複数回の接種にも係らず、感染防御に効果的な抗体価を獲得できない個人が存在する。本研究ではまず、HBVワクチンの”真”の効果を調べる目的で、当センターの医療従事者1,085名に対し血液検査を行い、既感染あるいは現在感染していると思われるHBc抗体陽性者27名を除いた1,058例のHBs抗体価を測定した。HBs抗体陽性率は83.1%で既報と同レベルであった。HBc抗体陽性者でHBs抗体陽性率は高い傾向を認めたが有意差はなかった。ワクチン接種歴のある908例中、6例でHBc抗体が陽性であり、ワクチン接種後に感染したと考えられるが発症した例はなかった。 抗体獲得不良の後天的要因としてのT細胞内シグナル伝達に焦点を当てた。そのシグナルにmiR-181a、DUSP6 (dual specific phosphatase6)が関連すると最近報告されたのを受けて、HBV当センター職員のうち、年齢、性をマッチさせた高HBs抗体獲得者 56例と低HBs抗体価 56例からリンパ球を抽出し解析を行った。Naive CD4細胞の検討では、既報の如く、年齢とともにmiR-181aの発現が有意に低下していたが、memory CD4細胞では、その差は認めなかった。また、HBs抗体価別にnaive CD4細胞におけるmiR-181aの発現を解析したところ、HBs抗体価の多寡によるmiR-181aの発現は変わらなかった。その原因として、高HBs抗体価例の中にはワクチン接種歴が不明例が含まれており、不顕性HBV感染の存在も疑われた。そこで、前年度に低抗体価が確認され、HBVワクチンを接種した例に限定して再度解析すると低HBs抗体価例で有意にmiR-181a発現が低下していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当センター医療従事者のHBs抗体獲得状況についての解析は順調に進んでおり、現在、論文化を進めている。本研究ではHBc抗体陽性者を除いているので(すなわち、HBVワクチン接種による抗体獲得不良の一因とされる潜在感染例を除いている)3次医療機関勤務の医療関係者における真のHBs抗体陽性率を確認できるものと考えている。 HBVワクチンによる抗体獲得不良機序の解明については、本年度の検体を収集し、naive CD4細胞とmemory CD4細胞に分離し凍結保存した。約半数の検体については解析を開始し、miR-181a発現の解析では、既報の如く年齢と共にその発現は低下していた。ところが、HBs抗体価別にmiR-181aの発現を解析すると、高抗体価群と低抗体価群で有意な差を認めなかった。その理由として、高抗体価群には、ワクチン接種の有無が明確でない例でHBV感染にてHBs抗体を獲得したことを否定できない例が含まれていた。また、低抗体価群には、1度のHBVワクチン接種しかされていない例が含まれ、真のワクチン獲得不良例とは言い難い例も含まれていた。すなわち、それらの群は一様な例の集団ではなく、かなりヘテロな集団であったことが、比較を難しくしていたものと考えた。そこで、さらに症例のbackgroundを一定化させるために、enrollmentにおいて多くの条件付けが(①数回のワクチン接種にも係らず抗体獲得が出来なかった、②前年のHBs抗体が陰性を示し、③当年にHBVワクチンを3回接種し、④翌年の職員検診を受診した例など)必要となった。これらの条件付けによって、症例数は限られるため、複数年に及ぶ職員検診において検体の収集が必要になったことで、さらに時間が必要となったため、当初の計画よりもかなり研究が遅れる結果となってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
当機関の医療従事者におけるHBs抗体陽性者のコホート研究は順調に進んでいる。ただ、HBc抗体陽性者のうち、ワクチン接種歴の聴取が出来ていない症例があるため、さらに情報収集に努める。ワクチン接種後に発症はしないまでもHBV感染を防御できなかったという点では非常に重要なメッセージになるため慎重に情報収集する。 加齢に伴う後天的T細胞内シグナル伝達不良とHBVワクチン接種後の抗体獲得不良との関連研究については上記の如く、現時点では研究仮説どおりの結果(加齢などによるT細胞内シグナルの伝達不良がHBVワクチンによる抗体獲得不良の一因)が得られているので研究の方向性は間違ってはいないと考えている。しかし、それぞれの症例の異なる背景をある程度一定化する必要性から、かなり厳しい症例収集に係る条件付けを設定したことにより、検体収集に時間がかかっている。その推進対策として、多くの症例を短期に収集するために当センターだけではなく、他医療機関からの収集も考えている。また、DUSP6については、検体は抽出してあるものの、miR181a解析がうまくいかなかったこともあり、その解析が遅れている。miR-181aの解析にて研究方針が固まってきているので、今後精力的に解析を進めていく。一方、後天性要因の解析が遅れる中、本研究の結果が求められるので、その対応策として先天的要因の解析(HLA-DP, HLA-DQと抗体獲得不良との関連)も進め、論文化を目指す。本件に関しては、既に遺伝子倫理審査の承認を得て、DNAも採取して凍結保存されているので、その遂行には時間および労力は、それほどかからないものと見込んでいる。
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Causes of Carryover |
年度末に行う予定の実験に対する各種試薬などを購入予定であったが、搬入業者の都合により、年度内に納入することが不可能となった。そのために、同支出をそのまま翌年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越した分および当該年度の予算を用いて各種試薬を購入し、miR-181aおよびDUSP6の測定・解析を進める。
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Research Products
(1 results)