2015 Fiscal Year Research-status Report
ケモカインCXCL12/CXCR4シグナル解析に基づく膵癌進展の病態解明
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26461033
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宇座 徳光 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30447958)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 膵癌 / 進展 / CXCL12/CXCR4 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. ヒト膵癌患者血清中のCXCL12値を測定し対照群と比較検討を行った。膵癌患者では高値であり、転移巣を有する非切除症例ではより高値であった。さらに切除標本の解析からCXCR4発現癌細胞は病巣の先進部に多く、その周囲にはCXCL12発現細胞を認めた。以上のことからケモカインCXCL12/CXCR4は浸潤や転移など癌の進展や予後に関与する因子である可能性が示唆された。 2. 各種膵癌細胞株においてCXCR4の発現が上昇していることを確認したのちに、CXCR4強制発現細胞株およびノックダウン細胞株を樹立した。この細胞株に対してCXCL12刺激による上皮間葉転換(EMT)因子の発現解析を行った。CXCL12の投与濃度によるばらつきはあるが、上皮系マーカーであるE-cadherinの発現は低下し、間葉系のマーカーであるVimentinの発現が増加していた。 3. 膵特異的CXCR4ノックアウトマウス(Ptfa-Cre;CXCR4f/fマウス)を作製したのちに、膵発癌モデルマウス(Ptf1a-Cre; KrasG12D; TP53R172Hマウス)と交配し、膵癌形成、組織学的悪性度、転移の有無および生存率について検討した。しかしながらコントロール群と比較して有意な差は得られなかった。そこで、異なる膵発癌モデルマウス(Pdx1-Cre; KrasG12D; TP53R172Hマウス)との交配を行い同様の解析を行った。まだ少数の解析ではあるが、本マウス(Pdx1-Cre; KrasG12D; TP53R172H; CXCR4f/f)ではコントロール群に比して、膵癌形成、転移巣、死亡率はいずれも軽度あった。さらに本マウスでは前癌病変である膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)の数にも差を認めた。これはCXCL12/CXCR4が癌の進展のみならず、発癌そのものにも関与している可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1. ヒト膵癌患者における血清CXCL12値の検討では、対照群として膵癌ハイリスク疾患である膵管内乳頭状粘液性腫瘍(Intraductal papillary mucinous neoplasm: IPMN)や慢性膵炎における検討が十分数に達していない。これは当院での慢性膵炎患者数(特に手術症例)が少ないことに起因する。引き続き症例数の確保に努める方針である。 2. 膵癌細胞株を用いたin vitro解析は比較的順調に進んでいるが、CXCL12投与濃度の設定等の改善点がある。 3. モデルマウスを用いた検討では、当初解析していた膵発癌モデルとの交配にて腫瘍進展に有意な差を認めなかった。そこで他の膵特異的プロモーターを用いた膵発癌モデルマウス(Pdx1-Cre; KrasG12D; TP53R172H)との交配をおこなうことで上記のような仮説を支持する結果と、新たな知見を得ることができた。 しかしながら、実験途中からの新たなモデルマウスとの交配であり十分な数の検討ができていない。さらに当実験動物施設では、施設内での感染問題が発生しため、約4ヵ月の間、実質上実験を施行することが困難となり、除菌および系統維持に専念せざるを得なくなったため実験が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
1. ヒト検体を用いた解析では、引き続き症例の集積を行い、血清CXCL12値および組織中のCXCL12/CXCR4の分布と、疾患、進行度およびその予後との関連を検討していく。 2. 膵癌細胞株を用いた解析では、今後膵癌の進展のメカニズムを解析する目的でinvasion assayとmigration assayを行う予定である。 3. モデルマウスを用いた研究では、上記のごとく、使用するモデルマウスの変更や感染問題にて十分な検討ができていない。感染問題が解消され次第、実験を再開し鋭意研究を継続していく方針である。
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Causes of Carryover |
前年度のモデルマウスを用いた研究では、上記のごとく、実験動物施設での感染症問題が発生し、実験を一部縮小あるいは中止せざるを得ず、当初の実験計画よりも遅れている。そのため次年度に使用する研究費が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は実験動物施設での研究再開許可が下りし次第、速やかに膵癌モデルマウスと膵特異的CXCR4ノックアウトマウスとの交配を行い、膵癌進展のみならず、発癌に関与する因子の解析を鋭意進めていく予定である。そのためマウスの購入および維持、さらには交配後のマウスの解析に前年度以上の研究費が必要と想定される。
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