2014 Fiscal Year Research-status Report
臨床データとエピジェネティックスの統合に立脚した急性心不全の病態解明と治療応用
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26461086
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
松下 健一 杏林大学, 医学部, 講師 (10317133)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 循環器 / 心不全 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は急性心不全のデータベースから臨床データの解析を主に遂行した。研究計画に掲げていた心腎連関を中心とした解析を施行し、急性心不全患者の予後増悪因子として知られている急性腎障害の合併について詳細に検討した。急性心不全患者を左室駆出分画 ejection fraction (EF)の保たれた群 (EF ≧ 50%)と低下した群 (EF < 50%) に分類し、それぞれの群における急性腎障害合併の危険因子を解析した。その結果、両群で高血圧が重要な危険因子であるものの高血圧の関わり方に差異があることを見出した。さらに、本研究課題の主要目的の一つである心不全治療薬の影響・効果について、この解析でも詳細に検討した。EFの保たれた急性心不全患者群とEFの低下した群では、特にカルシウム拮抗薬服用下において急性腎障害合併に差異が認められた。急性心腎症候群の今後の研究において意義ある研究成果と考えられ、平成27年6月に開催される欧州高血圧学会で発表予定である。 その他、本研究課題の主要目的の一つである心不全治療薬の研究に関連して、新規利尿薬であるトルバプタンの効果についても検討している。同薬はこれまでの大規模臨床試験でEFの低下したうっ血性心不全患者の急性期治療としての有用性が報告されているが、EFの保たれた症例や長期投与についての効果は未だ不明である。本研究では同薬を投与した症例の経過も分析しており、そのうちの一例としてEFの保たれた急性心不全の症例に同薬を長期投与して有効であった経過を報告した(Kanaya M, Matsushita K, et al. Am J Ther. 2014 Oct 23. [Epub ahead of print])。今後も同薬を含めた心不全治療薬について、未だ解明されていない影響・効果を研究継続予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究計画に掲げていた心腎連関を中心とした研究から施行した。急性心不全患者の予後増悪因子として知られている急性腎障害の合併に着目し、急性心不全患者を左室駆出分画 ejection fraction (EF)の保たれた群 (EF ≧ 50%)と低下した群 (EF < 50%) に分類してそれぞれの群における急性腎障害合併の危険因子を解析した。その結果、両群で高血圧が重要な危険因子であるものの高血圧の関わり方に差異があることを見出した。さらに、本研究課題の主要目的の一つである心不全治療薬の影響・効果について、この解析でも詳細に検討した。EFの保たれた急性心不全患者群とEFの低下した群では、特にカルシウム拮抗薬服用下において急性腎障害合併に差異が認められた。これらの結果より、未だ発症機序が明らかでない急性心不全時の急性腎障害合併について、EFの保たれた病態と低下した病態では機序が異なる可能性があると考えられた。 その他、本研究課題の主要目的の一つである心不全治療薬の研究に関連して、新規利尿薬であるトルバプタンの効果についても着目した。同薬はバソプレシン(抗利尿ホルモン)受容体拮抗薬であり、これまでの大規模臨床試験でEFの低下したうっ血性心不全患者の急性期治療としての有用性が報告されている。しかし、EFの保たれた症例や長期投与についての効果は未だ不明である。理論的にはEFの保たれた心不全でも有用と考えられ、本研究では同薬を投与した症例の経過も分析している。本年度は、そのうちの一例でEFの保たれた急性心不全において同薬の長期投与が有効であったという症例報告を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き臨床データの詳細な解析を遂行する。本研究課題の主要目的の一つに掲げている心エコー検査指標についても、最新の知見を含めて検討項目を細かく変更していきながら研究を施行する。左室収縮能の保たれた拡張障害による急性心不全では左室収縮能の低下した心不全に比べて病態の不明な点が多い。現在心エコーで測定される左室流入血流速度(E)と僧帽弁輪速度(E’)の比E/E’は左室拡張障害を評価する有用な指標とされているが、未だ問題点も指摘されている。本研究では急性心不全患者のE/E’と他の臨床データ・経過を分析し、急性心不全における拡張障害指標の有用性・問題点を含めた詳細な検討を施行する。 心不全治療薬については、新規治療薬を含めて入院前の服薬状況から入院中の治療薬、退院時の投薬内容まで詳細に解析する。退院日以降は、心不全による再入院の有無、心不全死の有無、非心臓死の有無を含めた経過・予後の解析も施行する。 さらに、本研究課題の主要目的の一つであるエピジェネティックス研究を遂行する。現在、micro RNA (miRNA)の発現様式とエピジェネティックな転写制御の関連が非常に注目されており、miRNAの発現制御が心血管病の病態に重要な役割を果たしている可能性が考えられているものの、未だ不明な点も多い。本研究では採血中からRNAを抽出し心不全のバイオマーカーとしての可能性のあるmiRNAsの探索を施行する。加えて、心不全の経過によって各標的miRNAのレベルが変化するかについても詳細に検討する。 複雑な病態である急性心不全の機序・修飾因子をさらに解明し、新たなリスク評価指標の確立、治療戦略へとつながる成果を得ることを目的として、これらの研究を継続する予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度に一部の成果についての学会発表を目標としていたが、平成27年度の発表となったため。加えて、平成26年度に購入予定であった物品・試薬等の一部を平成27年度に変更としたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画に掲げていた心腎連関を中心とした研究で一定の成果が得られ、平成27年6月に開催される欧州高血圧学会で発表予定であるため、学会発表に関する諸費用として使用する。加えて、本研究申請時に平成26年度の購入予定としていたデータ入力用コンピューターならびにソフトウェア、試薬類の一部を平成27年度に変更として購入予定であり、平成27年度の研究計画予算と合わせて、さらなる臨床データ解析、エピジェネティックス研究を遂行する。
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