2015 Fiscal Year Research-status Report
内皮細胞におけるNox4による低酸素応答増強メカニズムの解明
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26461145
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吾郷 哲朗 九州大学, 大学病院, 助教 (30514202)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | NADPH oxidase / Nox4 / 血管内皮細胞 / 血管周皮細胞 / 低酸素 / 脳虚血 / 下肢虚血 / ミトコンドリア |
Outline of Annual Research Achievements |
活性酸素種(Reactive Oxygen Species: ROS)は,種々のタンパク質を酸化し,酵素活性や細胞内シグナル伝達に影響を及ぼすことによって種々の病態の発生や進展に寄与する.ROSを産生しうる酵素は多種存在するが,NADPH oxidase (Nox) family タンパク質はROS産生を主目的とする唯一の酵素群である.Nox familyには5種類のNox (Nox1~Nox5) が存在するが,我々は心血管系細胞を中心に様々な細胞に発現するNox4に注目し,その役割と病態における制御の是非について継続的な検討を行なっている.Nox4は他のNoxと活性制御機構が異なり,その発現量によってほぼROS産生量が規定される.我々は低酸素・低栄養といったストレスによりNox4の発現が誘導されることを明らかにし,ミトコンドリア機能と密接に関連しうることを報告している.さらにNox4遺伝子改変マウスを用いて,脳虚血,下肢虚血,心肥大・心不全,動脈硬化の疾患モデルにおけるNox4発現と病態への関与について報告してきた.Nox4は心血管病の発症・進展に関わる重要なROS産生酵素であることに疑いはなく,その発現はとくに内皮細胞において高度であることから,本研究課題においては,内皮細胞におけるNox4の分子制御と細胞内シグナル伝達機構について詳細な検討を行なっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全身性にNox4を欠損させたマウスにおいても明らかな表現型変化は認められないことから,個体発生や生理的条件下における生命現象にNox4は必須な分子ではないと考えられる.実際,健常個体では脳・心・血管など多くの組織でNox4の発現は低く抑えられていた.しかしながら,培養細胞レベルにおいてNox4の発現は他の細胞に比べて内皮細胞で高度であり,かつ低酸素刺激によって有意に増加する.これに一致して,マウスを用いた下肢虚血や脳虚血モデルにおいて虚血領域の微小血管内皮細胞にNox4の発現が強く誘導されることをmRNA(in situ hybridization)およびタンパク質レベル(免疫組織染色)で確認した.マウス下肢虚血モデルにおいて,内皮特異的Nox4過剰発現マウス(Tg-EC-Nox4)では野生型マウスに比し,虚血作製21日目以降の血管新生とそれに引き続く血流回復が有意に亢進しておりNox4は血管新生に対して有利に働く可能性が示唆された.一方,マウス中大脳動脈永久閉塞ならびに虚血再灌流による2つの脳梗塞モデルにおいても,Nox4は梗塞周囲領域の微小血管内皮細胞および周皮細胞に強く発現誘導されたが,Tg-EC-Nox4では野生型マウスに比し,脳梗塞作製後1~4日目における血液脳関門破綻の亢進と梗塞拡大を認め,Nox4は急性脳虚血の病態悪化に関与すると考えられた.脳虚血病態を悪化させた原因について培養脳血管内皮細胞を用いた検討やマウス脳組織を用いた免疫染色およびウエスタンブロットなどで検討を行なっている.Nox4過剰発現により培養脳血管内皮細胞においても血管新生に関わる分子群の発現が有意に亢進することを確認しており,急激な血管新生の誘導が脳においては血液脳関門の破綻を助長し病態悪化に関与する可能性を考慮して研究を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝子改変動物を用いることで,心血管・虚血病態におけるNox4の意義は急速に明らかとなってきたが,その分子機序については不明な点も多く,我々は血管内皮細胞におけるNox4の発現誘導とこれに伴う細胞内シグナル伝達制御について分子レベルでの検討を継続している.購入した培養脳微小血管内皮細胞に対して,ウイルスベクターを用いた過剰発現とsiRNAによる発現抑制,さらには阻害剤を用いた機能抑制を行ない,Nox4の細胞内局在と低酸素刺激に対するシグナル伝達・応答の変化について検討している.siRNAによるNox4発現抑制は技術的にも難しく効率が悪いこと,阻害剤に関しては特異性の問題(他のNoxやROS産生酵素への作用)を完全には除外できないこともあり,現在Nox4 欠損マウスおよびTg-EC-Nox4からの内皮細胞の単離・培養を行い,ウイルスベクターや薬剤によって得られた成果の裏付けをとっている.より詳細な分子機構を解明することで,Nox4発現変化による心血管病・表現型変化の理由について明らかとし,Nox4制御を介した心血管病治療の可能性について模索したいと考えている.
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Causes of Carryover |
研究試薬未購入分を繰り越した.研究試薬は研究費残高をみながら無理をしない範囲で購入したため,奨学繰り越すこととなった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度購入しなかった研究試薬(抗体)の購入に使用する予定である.
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