2014 Fiscal Year Research-status Report
肺腺癌におけるKRAS変異によるシグナル伝達系への制御機構の解明と治療応用
Project/Area Number |
26461181
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
砂長 則明 群馬大学, 医学部附属病院, 助教 (70400778)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | KRAS変異 / 肺腺癌 / 分子標的治療 |
Outline of Annual Research Achievements |
KRAS G12C変異を有する肺腺癌細胞株6株について、至適な培養条件を設定した。各肺腺癌細胞株を培養して、細胞ペレットを回収後に、genomic DNA、total RNAを抽出した。Genomic DNAを鋳型として、KRAS遺伝子のコドン12を含む領域を増幅後、DNAシークエンス法により、全ての細胞株がKRAS G12C変異を有することを確認した。total RNAからcDNAを合成し、real-time PCR法により、各肺腺癌細胞株におけるKRAS mRNA発現量を調べた。各肺腺癌細胞株に対して、siRNAトランスフェクション法により、変異型KRASまたは野生型KRASが高効率にノックダウンできる至適条件を設定した。siRNAトランスフェクション後に細胞ペレットを回収し、total RNAを抽出した。RT-PCR を行い、BstNI 制限酵素処理後のPCR産物を電気泳動して、変異型と野生型のKRAS アレルからの転写産物を識別し、変異型KRAS あるいは野生型KRAS の発現がノックダウンされていることを確認した。以上のように、使用する細胞株について、至適培養条件設定や、KRAS遺伝子変異や発現量の確認、効率的な変異型または野生型KRAS特異的ノックダウンの条件設定を行った。 過去の研究において、変異型KRASノックダウンとp38阻害薬の併用により肺腺癌細胞の増殖抑制効果が増強されることを報告したが、本研究では、変異型KRASノックダウンの代わりにRAS下流分子であるMEK阻害薬を用いて、p38阻害薬とMEK阻害薬により、同様の増殖抑制効果が認められるか調べた。H1792細胞株を、10uMのMEK阻害薬(PD0325901)とp38阻害薬(p38-V)により48時間処理したところ、各々の阻害薬単独処理よりも、2剤併用処理の方が、より強い細胞増殖抑制効果を示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
KRAS G12C変異を有する6株の肺腺癌細胞株において、至適な培養条件設定や、KRAS遺伝子変異や発現量の確認、効率的な変異型KRASまたは野生型KRAS特異的ノックダウンの条件設定を完了することが出来たが、KRAS G12V変異を有する肺腺癌細胞3株についての実験条件設定は未完了であるため、これらの細胞株についても同様に実験の至適条件を設定したい。また、変異型KRASノックダウンにより活性化Ras GTPaseが効率的に低下しているか検証するための、Ras GTPase Chemi ELISA Kitを用いた実験が未完了である。さらに、変異型KRASノックダウンがシグナル伝達経路の分子のリン酸化に与える影響を調べるためのリン酸化アレイ実験が未完了のため、KRAS G12C変異陽性肺腺癌細胞6株を用いて、PathScan Signaling Antibody Array Kit(Cell Signaling社)によるリン酸化抗体アレイを行い、変異型KRASノックダウンがRAS下流分子のリン酸化にどのような変化を与えるか解析をすすめたい。 その他、変異型KRASノックダウンの代わりにRAS下流分子であるMEK阻害薬を用いた予備実験において、p38阻害薬とMEK阻害薬の併用が、H1792肺腺癌細胞株の細胞増殖を効率的に抑制することがわかったが、MTTアッセイのみの結果であるため、今後はさらにコロニー形成試験やアポトーシス誘導能を評価する実験系を追加し、他の肺腺癌細胞株においても同様の実験を行うことにより、p38阻害薬とMEK阻害薬の併用によるKRAS変異肺腺癌細胞の相乗的な増殖抑制効果を検証したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
実験条件設定が完了したKRAS G12C変異を有する肺腺癌細胞6株を用いて、変異型KRASまたは野生型KRASをノックダウンした細胞や、コントロールsiRNA処理した細胞から抽出した蛋白をサンプルとし、PathScan Signaling Antibody Array Kit(Cell Signaling社)によるリン酸化抗体アレイ(EGFR Signaling、RTK Signaling、Intracellular Signaling の3種)を施行することにより、変異型KRASノックダウンが50種の蛋白のリン酸化にどのような変化を与えるか解析する予定である。また、リン酸化アレイで得られた結果は、リン酸化抗体を用いたウエスタンブロットにより、さらに検証する予定である。さらに、同様のリン酸化アレイを、KRAS G12V変異陽性肺腺癌細胞株でも行い、KRAS G12C変異とKRAS G12V変異とで、KRAS下流分子のリン酸化に与える影響が異なるかどうかについても解析する予定である。 その他の研究では、H1792肺腺癌細胞株を用いた予備実験で得られたp38阻害薬とMEK阻害薬の併用による相乗的な細胞増殖抑制効果が、他のKRAS変異陽性肺腺癌細胞株でも同様に認められるかどうか検証実験をすすめる予定である。もし、H1792以外に同様の併用効果が認められる細胞株があれば、それらの細胞株で得られたリン酸化アレイにおいて共通する変化を解析することにより、p38とMEKの同時阻害による相乗的な細胞増殖抑制のメカニズムを調べ、どのような特性を有するKRAS変異陽性肺腺癌にp38とMEKの同時阻害が有効であるか探索する。
|
Causes of Carryover |
今年度の主要な使用額であるCell Signaling社のpathScan Signaling Antibody Array Kit(EGFR Signaling Kit、RTK Signaling Kit、Intracellular Signaling Kitの3種)によるリン酸化アレイの実験が未施行である。また、リン酸化アレイで得られた結果を検証するためのリン酸化抗体などを用いたウェスタンブロットが未施行である。さらに、活性化Ras GTPaseを検出、定量するRas GTPase Chemi ELISA Kit(Active Motif社)についても未施行である。そのため、これらの実験等に必要な使用額が次年度へ繰り越しとなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
KRAS変異陽性肺腺癌細胞株の培養やRNA干渉実験に使用する他、変異型KRASまたは野生型KRASをノックダウンした細胞や、コントロールsiRNAで処理した細胞から抽出した蛋白をサンプルとしたリン酸化抗体アレイに使用する予定である。さらに、得られた結果を検証するためのリン酸化抗体などを用いたウェスタンブロット実験、活性化Ras GTPaseが変異型KRASをノックダウンした細胞で低下しているか検証するためのRas GTPase Chemi ELISA Kit実験などに使用する予定である。その他、p38とMEKの阻害薬併用による相乗的な細胞増殖抑制効果が、H1792以外の肺腺癌細胞株で認められるか検証するための実験や、併用効果が認められた複数の肺腺癌細胞株で得られたリン酸化アレイに共通する変化を探索するための解析に使用する予定である。
|