2015 Fiscal Year Research-status Report
肺腺癌におけるKRAS変異によるシグナル伝達系への制御機構の解明と治療応用
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26461181
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
砂長 則明 群馬大学, 医学部附属病院, 助教 (70400778)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | KRAS変異 / 肺腺癌 / 分子標的治療 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに、MEK阻害薬(PD0325901)とp38阻害薬(p38-V)との併用が、各々の単独処理より、より強力な細胞増殖抑制効果を有することを示したが、他のMEK阻害薬Selumetinib(SEL)とp38阻害薬LY2228820(LY)の併用でも、肺腺癌細胞の増殖抑制効果が増強されるか検証した。H1792細胞株を、SEL(1μM固定)とLY(10pMから10μMまで)で処理し、48時間後の細胞生存率を評価した。SEL単独処理と比較し、100nM以上のLY処理で有意に細胞生存性が低下した。その他、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI;Erlotinib 1μM、Afatinib 1μM)とSELの併用効果も検証したところ、EL単独処理と比較し、100nM以上のEGFR-TKI処理で有意に細胞生存性が低下した。以上より、MEK阻害薬によるKRAS変異肺腺癌細胞の増殖抑制効果が、p38阻害薬やEGFR-TKIとの併用により増強されることが明らかとなった。 最近、非小細胞肺癌治療に対してPD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬が有効であることが明らかとなり、腫瘍におけるPD-L1発現が治療効果予測の有力なバイオマーカーと考えられている。そこで、複数のKRAS肺腺癌細胞株において、PD-L1発現解析を行ったところ、H358、H441細胞株においてPD-L1が高発現していた。2つの細胞株における変異型KRAS発現を、RNA干渉法によりノックダウンしたところ、PD-L1発現が有意に低下した。さらに、MEK阻害薬(U0126、Selumetinib)、ERK阻害薬(FR180204)処理でも同様に、PD-L1発現が有意に低下した。以上より、肺腺癌において、KRAS変異によるMEK-ERKシグナル伝達経路の活性化が、PD-L1発現を正に制御している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
KRAS G12C変異、KRAS G12V変異を有する肺腺癌細胞株において、至適な培養条件設定、KRAS遺伝子変異や発現量の確認、効率的な変異型KRASまたは野生型KRAS特異的ノックダウンの条件設定を完了することが出来た。一方で、変異型KRASノックダウンがシグナル伝達経路の分子のリン酸化に与える影響を調べるためのリン酸化アレイ実験が未完了のため、KRAS変異陽性肺腺癌細胞を用いて、PathScan Signaling Antibody Array Kit(Cell Signaling社)によるリン酸化抗体アレイを行い、変異型KRASノックダウンがRAS下流分子のリン酸化にどのような変化を与えるか、さらに解析をすすめる予定である。 その他、変異型KRASノックダウンの代替として、RAS下流分子であるMEKの阻害薬(PD0325901またはSelumetinib)による肺腺癌細胞株H1792の細胞増殖抑制効果が、p38阻害薬(p38-V、LY2228820)やEGFR-KTI(Erlotinib、Afatinib)との併用により増強されることがわかったので、今後は、他の肺腺癌細胞株においても同様に、これらの阻害薬の併用による細胞増殖抑制の増強効果が認められるか、あるいはそれらの併用効果が異なるかどうか、さらに検証をすすめる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
KRAS G12C変異、G12V変異を有する肺腺癌細胞株を用いて、変異型KRASまたは野生型KRASをノックダウンした細胞や、コントロールsiRNA処理した細胞から抽出した蛋白を用い、PathScan Signaling Antibody Array Kitによるリン酸化抗体アレイを施行することで、変異型KRASノックダウンが50種の蛋白のリン酸化にどのような変化を与えるか解析する。また、KRAS変異陽性肺腺癌細胞株H1792のMEK阻害薬による細胞増殖抑制効果が、p38阻害薬またはEGFR-TKIとの併用により増強されることが明らかとなったが、他のKRAS変異陽性肺腺癌細胞株でも同様に併用効果が認められるか検証をすすめる。もし、肺腺癌細胞株間で併用効果に差異が認められれば、各細胞株におけるリン酸化アレイとの関連性を解析することで、MEK阻害薬とp38阻害薬あるいはEGFR-TKIとの併用による細胞増殖抑制増強のメカニズムを調べ、どのような特性を有するKRAS変異陽性肺腺癌に、これらの阻害薬の併用が有効であるか検証をすすめる予定である。 その他、PD-L1を高発現するKRAS変異陽性肺腺癌細胞株H358、H441において、変異型KRASノックダウン、MEK阻害薬、ERK阻害薬がPD-L1発現を抑制する実験結果から、肺腺癌におけるKRAS変異がMEK-ERKの活性化を介してPD-L1発現を正制御する可能性が示唆されるが、他のPD-L1高発現KRAS変異陽性肺腺癌細胞株でも同様の現象が認められるか検証をすすめる。さらに、MEK、ERK以外のRAS下流シグナル伝達分子であるPI3KやAktの阻害薬によるPD-L1発現への影響や、KRAS変異陽性肺腺癌においてPD-L1発現を制御する転写因子についても探索する予定である。
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Causes of Carryover |
MEK阻害薬と、p38阻害薬またはEGFR-TKIとの併用による細胞増殖抑制効果の増強が、H1792細胞株以外のKRAS変異陽性肺腺癌においても認められるか検証するための実験が未施行であり、これらの実験等に必要な試薬等の使用額が次年度へ繰り越しとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
KRAS変異陽性肺腺癌細胞株の培養やRNA干渉実験、MEK阻害薬とp38阻害薬またはEGFR-TKIとの併用によるKRAS変異陽性肺腺癌細胞の細胞増殖抑制効果を検証する実験等に使用する予定である。
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