2015 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子改変マウスを用いたナトリウムポンプ病-家族性片麻痺性片頭痛2型-の病態解明
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26461284
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
池田 啓子 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (10265241)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ナトリウムポンプ / 片頭痛 / α2サブユニット / 病態モデルマウス / 小脳スライス / 電気生理学実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナトリウムポンプはほぼすべての形質膜に存在するαサブユニットとβサブユニットからなる能動輸送酵素で細胞の生存に必須である。哺乳類の脳にはα2とα3のアイソフォームが主として存在し,神経活動に重要な役割を果たす。近年α2とα3サブユニットをコードする遺伝子変異が原因となっている神経疾患が次々に発見された。本研究では,α2サブユニット機能欠失をひきおこす遺伝子変異によってひきおこされる家族性片麻痺性片頭痛TypeIIについて,病態モデルマウスを使ってナトリウムポンプの生体の神経系における役割を個体レベルで明らかにし,モデル動物としての有用性の検定と同時に片頭痛の病態解明・新規治療法の開発につなげることを目的とした。当該年度(平成27年度)は 平成26年度に引き続き 以下を成果を得た。 1. 遺伝子欠損ヘテロマウスを使った実験 (1) α2サブユニット遺伝子欠失ヘテロマウス(Atp1a2+/-)から調製した小脳スライス標本による電気生理学的実験を行い,抑制性シナプス伝達効率を調べた。同腹野生型兄弟マウスと比較したが,有意な差は認められなかった。 (2) 片頭痛の前兆の病態を説明するCSDは,大脳皮質に刺激を加えた際に,一過性の脱分極に引き続いて生じる神経細胞とグリアの電気活動の抑制が,遅い速度(2-6mm/min)で後頭葉から前頭葉に伝播していく現象である。Atp1a2+/-と野生型を用いてCSD誘発実験を行ったところ差異が認められた。 2. ヒトで報告された変異相同部分に変異を有する新たなトランスジェニック(Tg)マウスを3系統樹立した。2系統で行動異常が観察されたが,すべての系統において明らかな形態学的な異常は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. α2サブニット遺伝子欠失ヘテロマウス(Atp1a2+/-)を使った解析. (1) スライス標本(小脳)を用いた電気生理学的手法による解析:小脳症状が付随する家族性片麻痺性片頭痛2型(FMH2)があること,小脳のプルキンエ細胞とバーグマングリアにAtp1a2が発現していること,グルタミン酸トランスポーターをコードし,バーグマングリアに発現するEAAT1の変異で片麻痺性片頭痛が報告されていることから,小脳を解析に用いる。小脳スライス標本の電気生理学的手法により,欠失変異を有するマウスの小脳の神経回路や神経素子(神経細胞)の特性が野生型とどのように違うかを調べた。 (2) CSDの測定:野生型と比較したとき,Atp1a2+/-で反応が変化しているかどうかを調べた。CSD後に発火する神経系の細胞を免疫組織学的に解析した。 (3) 発達段階を追った神経系各部位における組織学的解析:α2アイソフォーム遺伝子とのクロスハイブリの可能性があったので,プローブを作り直した。 2.ナトリウムポンプα2サブユニット遺伝子に変異を有する,新たなトランスジェニック(Tg)マウス3系統の作成と解析. ヒトでは変異タンパク質がドミナントネガティブに働いて片頭痛の発症につながる可能性が示唆されている。α2サブユニット遺伝子に点突然変異(ヒトで見つかる変異を,マウス遺伝子の相同部位に入れる)を有する新たな3系統のTgマウスのコンストラクトをBACクローンを用いて作成,個体化できた。通常飼育下でのTgマウスの以下の行動学的解析を行った。通常の飼育下で,てんかん発作を起こすか,情動行動の変化(オープンフィールド,高架十字迷路,強制水泳等),痛みを感じたときの行動をおこすか(じっとうずくまる,そのときの顔の表情),体重の増減。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度は動物飼育上の事情で,実験遂行が遅れ気味であったが,今年度は比較的順調に遂行できた。 1.(1) 引き続きα2サブユニット遺伝子欠失ヘテロマウス(Atp1a2+/-)から調製した小脳スライス標本による電気生理学的実験を行う。小脳スライスを用いた予備的な実験では同腹の兄弟マウスとの間に差異が認められなかったので,梨状野,扁桃体等に部位を変え,スライス標本による電気生理学的実験を行う。 (2) Atp1a2+/-と野生型を用いてCSD誘発実験を行ったところ差異が認められたのでさらに数匹データを増やし,次年度,論文にまとめる。 2. 樹立した3系統について 行動異常が観察された2系統ではさらに詳細な行動実験を行い,同時に組織学的解析を行う。
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Causes of Carryover |
施設の関係で繁殖ができない時期にあたったため実験を進められない時期があった。そのため,電気生理学や解剖・組織学的解析実験が滞り,試薬の購入や動物維持のための諸費用がかからなかったため,次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在,順調に動物が繁殖,維持できているので,実験を進めることができる。実験遂行に必要な試薬を購入し,論文発表のための諸費用にあてる予定である。
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Research Products
(11 results)