2015 Fiscal Year Research-status Report
ヒストンH3K27トリメチル化抑制を介した薬剤耐性獲得機構の解明と臨床応用
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26461430
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
菊池 次郎 自治医科大学, 医学部, 准教授 (60371035)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 造血器腫瘍 / 薬剤耐性 / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
多発性骨髄腫細胞の薬剤耐性獲得に鍵となるヒストンH3の27番目のリジン(H3K27)へのメチル化抑制機構の解明を進めた。その結果、メチル化酵素EZH2へのPI3K/Akt/IGF-1Rキナーゼ経路を介したリン酸化による活性抑制によることを明らかにした。また、マイクロアレイ解析とChIP assayにより、H3K27メチル化抑制の下流で薬剤耐性に働く分子としてBcl-2やIGF-1、HIF-1α等を同定した。続いて、PI3K/Akt/IGF-1R経路に対するキナーゼ阻害剤の薬剤耐性克服への有効性の検証を進めた。まずin vitroにおいて、これらのキナーゼ阻害剤はEZH2リン酸化抑制を介して薬剤耐性の克服に有効であった。次にin vivoにおける検証を進めた。モデルには、ヒト骨髄腫細胞株とストローマ細胞株を混合して免疫不全マウスの皮下に移植したxenograftモデルと、マウス骨髄内で増殖が可能な骨髄腫細胞株を移植したsyngeneicモデルの両者を用いた。これらのマウスは従来の抗がん剤であるサイクロフォスファマイドには耐性を示すが、IGF-1R阻害剤であるOSI-906に対しては耐性を示さず、有意な腫瘍退縮効果が得られた。以上より、骨髄腫細胞ではストローマ細胞との接着時、PI3K/Akt/IGF-1Rキナーゼ経路の活性化によりEZH2がリン酸化されて不活性化、遺伝子発現抑制に働くヒストン修飾であるH3K27のメチル化が抑制されて、抗アポトーシスに働くBcl-2、IGF-1などの発現が亢進し、耐性を獲得する機構を明らかにした。一方、この経路の阻害に働くキナーゼ阻害剤は骨髄腫細胞の薬剤耐性の克服に有効なことを明らかにした。これらの結果は、多発性骨髄腫の薬剤耐性におけるエピジェネティク制御メカニズムを明らかにした初めての報告である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は2年を経過した時点であるが、これまでに骨髄腫細胞の接着を介したシグナルがどのように核内に伝達されてエピジェネティクスを変化させるか、その結果、どのような遺伝子の発現変化により薬剤耐性が獲得されるのか等、全体の研究計画で解明を目指した薬剤耐性獲得機構の解明をほぼ達成できた。続いて、EZH2のリン酸化抑制に働くキナーゼ阻害剤を同定、マウスモデルを用いて薬剤耐性克服への有効性も検証するなど、多発性骨髄腫の新たな治療法の開発にも成功した。これらの結果は、医学系の雑誌として著明なJ Clin Invest誌に昨年末に掲載されており、本研究は当初の計画以上に進展したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
薬剤耐性克服に有効性を示したキナーゼ阻害剤について、本学の臨床研究支援センターの協力の元、多発性骨髄腫患者への臨床応用を進める。一方、H3K27メチル化抑制の下流で発現亢進の見られた遺伝子の中から、薬剤耐性や骨髄腫細胞における機能が未解明な分子について、さらなる機能解明を進める。骨髄腫患者由来の細胞における発現様式や、ストローマ細胞との接着時における発現変化を定量PCRやイムノブロット、フローサイトメーター等を用いて解析する。続いて強発現とノックダウンによるgain-of-function、loss-of-function解析、阻害剤や特異抗体のスクリーニング等により、多発性骨髄腫に対する新規治療法の開発を目指す。
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Research Products
(13 results)