2014 Fiscal Year Research-status Report
マラリア原虫へのステロール供給経路の解明と治療への応用
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26461499
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
磯尾 直之 東京大学, 医科学研究所, 助教 (80420214)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | マラリア / リポ蛋白 / スカベンジャー受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)ウェスタンブロット解析(膜画分と細胞質画分に対する)および免疫組織染色により、スカベンジャー受容体クラスB(SR-B)に属する主要分子であるSR-B1およびCD36が、いずれもPlasmodium berghei(以下Pb)感染にさいして、マウス赤血球の細胞質から細胞膜へtranslodcateしていることが示された。 (2)フローサイトメトリーを用い、DiO標識した各種リポ蛋白(HDL, LDL, oxLDL)のマウス赤血球への取り込みを検証した。Pb未感染赤血球ではこれらの取り込みは殆どみられなかった一方、Pb感染赤血球(シゾント期)ではHDLの著明な取り込みを認めた。SR-Bの特異的遮断薬であるBLT-1はこのHDL取り込みを用量依存的に抑制した。 (3)上記結果から、Pbの宿主赤血球感染により細胞膜にtranslocateしたSR-Bを介して、HDLが赤血球に取り込まれ、HDLの構成分子(マラリア原虫はステロールのde novo生合成系を持たないので、特にステロールが重要であると予測される)がPb増殖の必要なnutrientとして利用されていることが示唆された。この現象は、マラリア原虫の生存戦略に関する知見として生物学的な興味が持たれる一方、マラリア治療に関するあらたな視点を与えるものである。すなわち、既に細胞膜上にあるSR-Bによるリポ蛋白取り込みを遮断する、あるいはSR-Bの赤血球細胞質から細胞膜へのtranslocationを抑制することにより、マラリア原虫のシゾント期における増殖抑制が可能となると考えられる。連携研究者にはP.falciparumに対してBLT-1を用いた増殖抑制検証を依頼し、現在有用なデータが得られつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の中核的部分であるマラリア原虫感染赤血球のリポ蛋白取り込みとその経路が明確に示され、さらにその経路の遮断方法、経路に関する分子的動態も併せて解明されつつある。今後の研究においては臨床応用を視野に、さらに安全かつ効率的な遮断方法を模索すること、取り込み経路の分子動態につきさらに詳しい機序を調べることが重要である。以上、研究の基本的な方向性はこの1年で決定したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
SR-B特異的遮断薬によるマラリア原虫増殖抑制効果を、in vitroおよびin vivoで示すことが最も重要である。Pbは全生活環を含む長期的培養が困難であり、in vitro studyはP.falciparumなどを用いる必要がある。連携研究者にはこの方面の解析を依頼しており、有用なデータが得られつつある。一方、in vivo studyは当面Pbでおこなう予定であるが、これまで用いてきたSR-B特異的遮断薬であるBLT-1は生体に対し毒性が高いとされ、近年発表された他の低毒性の遮断薬を検討中である。また、SR-B1/CD36ダブルノックアウトマウスを用いた解析も併せおこなう予定である。 また、感染赤血球におけるSR-Bのtranslocationにつき、その機序を解明することは、SR-B特異的遮断薬以外のalternativeな治療方法につながる可能性があり、重要であると考えられる。
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Causes of Carryover |
(1)高額試薬(SR-B特異的遮断薬)の必要性 (2)高額実験動物(SR-B1ノックアウトマウスおよびCD36ノックアウトマウス、およびこれらの交配によるダブルノックアウトマウス)の必要性 があらたに生じたため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1)現在使用しているSR-B特異的遮断薬であるBLT-1(Sigma-Aldrich)は、5mgあたり2万円以上の価格である。今後、SR-B特異的遮断薬を用いたin vivo studyが必要である。これまでのマウス赤血球でのex vivo studyでは、BLT-1によるリポ蛋白取り込み抑制は、100~1000μMでplateauとなったが、これから推測するとin vivo studyでは、マウス1頭あたり0.5mg(2000円以上)のBLT-1が必要である。BLT-1以上に高額な低毒性遮断薬を用いた場合、さらに大きな経費を計上すべきであると見積もられる。 (2)SR-B1ノックアウトマウスおよびCD36ノックアウトマウスは、いずれも1頭300米ドル以上の価格である。これらの購入と交配、維持管理費用は年間100万円以上と見積もられる。
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