2015 Fiscal Year Research-status Report
新生児スクリーニングで発見されるMCAD欠損症例の急性発症リスク評価に関する研究
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26461526
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
但馬 剛 広島大学, 医歯薬保健学研究院, 講師 (00432716)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | MCAD欠損症 / 脂肪酸代謝異常症 / マススクリーニング / タンデムマス / 低血糖症 / 乳幼児突然死 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンデムマス法による新生児マススクリーニングの有用性が最も高い対象疾患と考えられる中鎖アシルCoA脱水素酵素(MCAD)欠損症について、前年に引き続き国内各地からの診断依頼症例のリンパ球酵素活性を測定した。新規依頼は14例あり、うち6例を罹患者と判定した(マススクリーニング5例, 同胞スクリーニング1例)。これら新規診断例を含め、これまでに酵素活性低下を認めた症例(40家系)について行った遺伝子解析では、上位5種の変異(c.449-452delCTGA, p.R17H, p.R53C, p.G362E, p.R281S)が全80アレル中47アレルを占めた。 マススクリーニング発見症例の急性発症リスク評価を目的とする変異酵素の機能評価では、残存活性の高さに比して患者血液中の異常代謝産物濃度が高い変異として、p.E253Kおよび新規症例に見出されたc.1231G>T (p.V411L) の検討を行った。 p.E253Kが同定された症例はホモ接合体で、血清中の異常代謝産物マーカーであるC8-アシルカルニチンは、生後3年余りの経過観察中、時に3μMに及ぶ異常高値を示している。これは残存活性の乏しい患者群に相当する所見であるにも関わらず、本例のリンパ球での活性は正常対照群平均値の109%と全く正常レベルであった。 p.V411Lが同定された症例は、リンパ球酵素活性は93%と正常レベルであったが、血清C8-アシルカルニチンの軽度高値が持続的に認められたため、遺伝子解析を実施した。結果は、null変異である c.449-452delCTGA との複合ヘテロ接合体であったことから、p.V411L変異酵素は野生型酵素の倍近い活性を有するものと推計された。 この2症例は患者細胞で単一の変異酵素機能を評価することが可能であることから、リンパ球破砕液を用いて、広範囲の基質C8-CoA濃度での酵素反応を測定したが、正常対照との差異は観察されなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
酵素診断症例のうち、変異アレルの組み合わせから単一の変異酵素の機能を評価できる患者の検体が得られたので、強制発現系ではなく患者リンパ球を用いて、基質濃度に対するkinetic studyを行ったが、実測データの非線形回帰プログラムによる解析では、Km, Vmaxとも正常対照と同等であった。検討した2症例はいずれも、血清中異常代謝産物濃度の高値が続いていることから、これまで使用してきた酵素活性測定法では、一部の変異については機能低下を正しく評価できず、それは Km, Vmax を求めても解決しないことが明らかとなった。今後の研究を進めていく上では、酵素機能評価法の改良が必要となる。 その解決策は別途検討しなければならないが、タンデムマス法による新生児マススクリーニングへの移行が全都道府県で完了し、MCAD欠損症の陽性例が急増している状況で、酵素活性測定法の「盲点」による誤った除外診断がなされる危険性が明らかとなったことは重要である。検討症例の経過観察結果から、そのような「誤診」を避けるには、血清アシルカルニチン分析による再検が有用と考えられる。初回濾紙血でC8-アシルカルニチンが陽性となった新生児については、濾紙血で再検せずに要精査とし、必ず血清C8-アシルカルニチンを確認することが望まれる。除外診断には、血清分析結果と酵素活性がともに正常であることを要件とし、正常活性であっでも血清C8-アシルカルニチンの異常値が続く場合は、慎重に経過観察しながら遺伝子解析を考慮する必要がある。これらの点については、学会報告などの形で随時提唱する方針である。
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Strategy for Future Research Activity |
現行の酵素活性測定法は、脱水素反応における生理的な電子受容体(ETF)の代わりとして、人工電子受容体(フェロセニウムイオン)を使用しており、この点が生体内での真の酵素機能状態との乖離を生じる原因になっている可能性が推測される。これを検討するにはETFの強制発現系を作製する必要があり、今年度はそのような方向で追究したい。 MCAD成熟タンパクに含まれないリーダーペプチド領域の変異であるにも関わらず、この変異を1アレルに有する複合ヘテロ接合体患者のリンパ球による活性測定では、野生型の20~25%程度に低下していると推計されるp.R17H変異については、強制発現系を用いて細胞内局在を観察したが、正常酵素同様にミトコンドリアへの分布が観察され、活性低下機序は未詳のままである。最近新たに、この変異のホモ接合体患者が発見され、従来の評価通りリンパ球残存活性は25%程度であった。今後、患者細胞で酵素タンパクの細胞内局在などを検討したい。
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[Journal Article] Significance of ACADM mutations identified from newborn screening of MCAD deficiency in Japan2016
Author(s)
Keiichi Hara, Go Tajima, Satoshi Okada, Miyuki Tsumura, Reiko Kagawa, Kenichiro Shirao, Yoshinori Ohno, Shin'ichiro Yasunaga, Motoaki Ohtsubo, Ikue Hata, Nobuo Sakura, Yosuke Shigematsu, Yoshihiro Takihara, Masao Kobayashi
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Journal Title
Molecular Genetics and Metabolism
Volume: 118
Pages: 9-14
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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