2014 Fiscal Year Research-status Report
放射光X線による微量元素異常疾患の高精度イメージング診断
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26461534
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Research Institution | Fujita Health University |
Principal Investigator |
松浦 晃洋 藤田保健衛生大学, 医学部, 教授 (70157238)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杵渕 幸 藤田保健衛生大学, 医学部, 准教授 (30244346)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射光 / 蛍光X線 / 微量元素 / ウィルソン病 / メンケス病 / ヘモクロマトーシス / 傷害機序 / 診断 |
Outline of Annual Research Achievements |
「微量元素異常」は一般的な疾患概念として確立しているわけではない。多くの微量重金属元素は古くから毒薬や公害として医学的な注目を集めたにすぎない。20世紀後半に、銅、鉄、亜鉛の3つの微量元素についてヒト遺伝性疾患が発見されたが、機序不明の稀な疾患としてがんや生活習慣病などの病気ほどその対策の必要性が認識されることはなかった。最近、銅過剰と欠乏(ウィルソン病とメンケス病)の原因遺伝子が明らかになり、微量元素の吸収体、トランスポーター、シャペロンなど様々な分子が同定され、精緻な恒常性維持機構が次々と明らかにされつつある。しかしながら、組織・細胞レベルでの微量元素の局在及びその病変との関連は未解明である。私たちは先行研究と合わせて、①病原変異の見つからないウィルソン病がかなり存在すること、②生化学的定量に十分な量の組織を採取するのが困難なこと、③銅組織化学染色は肝硬変に陽性顆粒が出現し、早期の肝炎期においてWilson病の組織診断がほぼ不可能であること、を明らかにした。これらを解決するために、塩基配列決定法の改良、微小試料の生化学的解析を試みた。コード領域やスプライシング部位に病原変異を有しない症例があり、生化学的解析は極微量では秤量誤差が生じやすい。破壊的測定方法のため疑問値の時に再検索できない。十分なヒト試料は肝部分切除術で得られる。即ち、生化学的測定方法(AAS, ICP-AES等)は単位重量当たりの原理的な測定感度は極めて高いが、採取量が十分でない針生検の場合正確な濃度測定ができない。一方、放射光X線による組織切片の解析は非常に薄い切片で十分元素特異的なシグナルが得られ、実際の測定感度は極めて高い。非破壊的で何度でも測定可能である。さらに走査測定によって一定範囲のデータを収集し画像化プログラムを開発することで微量元素の可視化(イメージング)が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
銅過剰を示すウィルソン病は比較的多くの、時期の異なる症例が集まっており、現在測定を順調に進めている。発症前診断が可能となった。銅欠乏のメンケス病については初代培養株を樹立し、さらに不死化細胞ラインを得ることに成功した。銅の挙動の解析中である。ヘモクロマトーシスは日本では遺伝性のものは少ないが、全国の医療機関の協力者から、ヘモクロマトーシス、原因不明の肝硬変で鉄染色陽性のもの、続発性のヘモジデローシス等を集積し、鉄の分布の解析が進行中である。初年度としては予想よりも多くの結果を得ることができた。1つにはKEK-PFを用い広い範囲の組織解析が容易になった。 また、測定時期毎に条件が変わるため、異なる時期のデータ比較が難しい面があった。濃度の判った生体試料を参照して相対的な比較は可能であるが、局所濃度の絶対値の決定に問題がある。銅については極微量の標準試料が準備できたので、組織切片から得られる銅特異的光子数の範囲を大体カバーすることが期待される。研究成果は一部英語論文にするとともに、国際学会Nanotek & Expo 2014に招かれて口頭発表した。国内では日本病理学会において「光科学の進歩と医学・病理学研究」というシンポジウムを企画発表するまでに至った。2015年の国際会議からシンポジウムの打診を受け、企画進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
広範囲測定により元素の存在位置の判明した試料について、ビームを絞った高輝度放射光により細胞レベルさらには細胞小器官レベルでの局在を明らかにする。標準銅試料は極微量のため場所によるバリエーションに注意しつつ結果を評価し絶対値の算出を行う。鉄、亜鉛についても、生体内量に相当するそれぞれの極微量標準試料を作成し絶対定量を目指す。遺伝子変異が多彩で創始者効果がみられないため、遺伝子型―表現形質相関が明らかでなかったが、変異蛋白の病変組織細胞での局在、病型毎の網羅的遺伝子発現パターンの解析を加えることで、相関の有無を検討する。特に、治療反応性の良くない症例や劇症型については、深く病態発生機序を理解し、解決方法を探す端緒とする。最近、銅と鉄、亜鉛の代謝について相互に関連するポイントが指摘されつつある。複数の微量元素の局在・量と相互作用の可能性を注意深く検討する。最初のターゲットとした明白な微量元素異常のみならず、腫瘍増殖のための血管形成や増殖シグナル伝達、アルツハイマー病繊維凝集ほか、これまで予想されなかった生体反応に微量元素が関与していることが明らかになりつつある。良くみられるありふれた疾患(common disease)の背景に微量元素異常が存在し、病態を修飾している可能性が高い。 本年の国際会議からシンポジウムの打診を受けたので、多くの医師、医学研究者に新しい手法とその応用について積極的に発信し、意見を受け、さらに発展させる。「微量元素異常」の概念を定着させ、病気の重要な要素としての認識を喚起したい。
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Causes of Carryover |
初年度は組織の構築を広範囲に測定し、微量元素の局在部位をおおまかに知ることを目的に測定を行った。 銅代謝関連分子のRNA発現の網羅的解析を予定していたが、病変組織は細胞傷害が強かったためか、RNAが壊れていて解析に耐えないとの判断で施行しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
適切な状態の病変組織を入手して、銅代謝関連分子発現の網羅的解析を行うのに研究費を用いる。
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Research Products
(15 results)