2014 Fiscal Year Research-status Report
微細構造を基盤とした蛋白尿発症機序の解明:低真空走査型電子顕微鏡を用いた解析
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26461610
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
岡田 晋一 鳥取大学, 医学部, 准教授 (50343281)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 蛋白尿 / 糸球体基底膜 / アルポート症候群 / 菲薄基底膜病 |
Outline of Annual Research Achievements |
蛋白尿の発症機序解明のために、今年度は、糸球体基底膜の遺伝的異常により発症するアルポート症候群と菲薄基底膜病の腎生検組織を低真空走査型電子顕微鏡(低真空SEM)で検討した。症例は、アルポート症候群4例(男:女 3:1、年齢 3-16歳、中央値 12.0歳)、菲薄基底膜病6例(男:女 1:5、年齢 8-19歳、中央値 10.0歳)であり、それぞれの診断は、糸球体基底膜Ⅳ型コラーゲンα鎖への蛍光抗体法、透過型電子顕微鏡法により行った。 低真空SEMでの観察は、糸球体基底膜を詳細に観察するために通常のPAM染色施行後に行った。低真空SEM観察により、上皮細胞や内皮細胞を除去することなくそれらの下側に存在する糸球体基底膜の形状変化が明瞭に観察された。アルポート症候群腎組織では糸球体基底膜の厚さの不均一性や立体的な網目構造が認められた。またこれらの変化は症例により差がみられた。一方、菲薄基底膜病腎組織では一様に薄い糸球体基底膜が波打っている所見が得られたが、アルポート症候群腎組織にみられた網目構造は認められなかった。 これらの結果と、尿蛋白出現後から徐々に腎機能が悪化し末期腎不全に至るアルポート症候群と、血尿のみが持続し末期腎不全に至ることがない菲薄携帯膜病の両者の自然歴を考慮すると、アルポート症候群の腎組織で認められた糸球体基底膜の網目構造の異常が尿蛋白出現に関与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
糸球体基底膜の異常により生じるアルポート症候群と菲薄基底膜病の腎組織について低真空走査型電子顕微鏡での観察を行った。この観察により両疾患の糸球体基底膜像には明瞭な差がありその鑑別に低真空走査型電子顕微鏡が有用であることが示された。また、この糸球体基底膜異常の差が、両疾患の尿蛋白出現や腎予後に関わっている可能性も考えられた。これは尿蛋白の出現機序を解明するという本研究において重要な知見と考えられる。また、この成果を英文論文掲載することができた。上記から、この結果を元として次年度の研究に進むことができるため、当初の計画と比較しておおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に、糸球体基底膜の形態変化と尿蛋白出現の関連の可能性を示した。しかし、これまでの研究により、尿蛋白の出現には糸球体上皮細胞も大きく関わっていることが示されており、糸球体基底膜の異常単独で尿蛋白が出現するのか、もしくは糸球体上皮細胞の異常も有するときに尿蛋白が出現するのかを低真空走査型電子顕微鏡観察により検討する。 一方、本研究の目的である尿蛋白出現機序解明のために、糸球体内皮細胞やメサンギウム細胞異常による腎疾患組織の低真空走査型電子顕微鏡による検討を進めていく。
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Causes of Carryover |
本年度は、抗体購入金額が少額であったため物品費の残高が生じた。また旅費についても少額となった。一方で研究成果を論文投稿することができたため英文校閲、別刷り金額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、全身性エリテマトーデス、溶血性尿毒症性症候群やIgA腎症などの慢性腎炎症例に対する低真空走査型電子顕微鏡に検討と免疫染色を行うための抗体、各種試薬などを新たに購入する。また研究の情報収集、成果発表のために学会参加を行う予定である。
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