2014 Fiscal Year Research-status Report
低酸素性虚血性脳症に対する新規トロンボモジュリンによる脳保護作用の解明
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26461640
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
高橋 幸博 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (60142379)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 新生児仮死 / 低酸素性虚血性脳症 / トロンボモジュリン / 脳保護作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
成熟ラットの頸動脈を露出してナイロン縫合糸を中大脳動脈内へ挿入し、永久結紮を加えることで脳虚血傷害の発症させ、結紮後6時間での傷害脳組織を評価した。 静脈内に投与したトロンボモジュリン投与群と対象として生理食塩水を投与した非投与群に分けて虚血脳病変をTTC染色で比較し、ミトコンドリア機能を有する正常組織は赤色に先勝され、傷害部位は白色である。傷害部位のおよそ局在をラットの標準脳組織標本図と比較し区分した。主な局在はCingulate、motor neuron、somatosensory neuron、pitiform、Striatum、Thalamus等で、区分が可能であった。傷害の面積をImage Jで計測した。傷害部位は同側および対側脳部位と、また各局在部位で解析した。 中大脳動脈永久結紮モデルでは、striatumは程度の差異はあるが傷害され、Cortexではsomatocensory領域が主に傷害された。傷害部位は浮腫上に腫脹していた。トロンボモジュリン投与群では、Striatum部位で傷害がみられるがその面積が減少し、somatosensory領域で有意な傷害部位の縮小がみられなかった。 本研究からトロンボモジュリンは脳傷害の進展を防止し、脳保護作用を有すると推定した。トロンボモジュリンには、いくつかの生理機能の存在が知られている。トロンビンと結合することでトロンビンの凝固活性や血小板活性化作用の抑制、トロンビンと結合することでプロテインC(PC)を活性化し、活性化凝固因子V,VIIIaの抑制、HMGB-1と結合することで組織傷害の抑制、TAFIの活性化である。ラットは直接PC系を介さないとされることから、他の要因で脳保護作用を示したと考えらえるが、その機序解明をされに進める必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
幼弱ラットでの左総頚動脈結紮および低酸素負荷モデルラットの作成を行ったが、モデルラット成功率が60%前後で、高額なトロンボモジュリン投与による実験で有意差を示すには多く幼弱ラットでの実験が必要で、そのためには研究費内で実験を終了することは困難と判断し、より確実なモデルでトロンボモジュリンの脳保護作用をまず検証することとした。そこですでに脳梗塞モデルとして確立した成熟ラットの中大脳動脈内にナイロン縫合糸を外頸動脈から反転し挿入し、永久結紮する方法で、トロンボモジュリンの静脈内投与実験を行った。また、傷害脳の病理検査をHE染色とニッスル染色で行ってきたが、全体像の把握が困難で、新たにTTC染色法を行った。両方法はすでに確立した方法(設備面、技術面でも安定した成果が得られている)で、同方法を用いた。また、本来虚血再灌流実験法として確立した方法で、ナイロン縫合糸を一旦留置し、虚血を起こさせ再度抜去する方法がより生理的ではあるが、条件設定等の影響もあり高額なトロンボモジュリンでは研究費等から支障があることから、永久結紮を選択した。その結果、TTC標本の染色性からはトロンボモジュリン投与群と非投与群で差異がみられたが、傷害部位の局在も含めた解析に時間を要した。最終手段としてImage Jでの解析と局在解析で投与群と非投与群に有意差(p<0.05)がみられ、実験方法および観察方法として確立できたと考えている。そこで、さらに実験を進めるためすでに高額なトロンボモジュリンを入手し、次の実験に使用するラットに関して、新たに動物倫理委員会等の手続きを進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
成熟ラットの左中大脳動脈永久結紮モデルでの脳保護作用が確認できたが、トロンボモジュリン投与群と非投与群として使用したラット数は予算の関係から各5匹で、寺家kンモデル数を増やして検証する。傷害脳組織の病理解析で用いたTTC染色以外に脳組織の虚血部位、神経細胞等の免疫染色法での評価を行う。その際、ラット脳は専用の脳スライサーで切断することで傷害脳がみられたスライス間の標本を用いて検討し、トロンボモジュリンの作用をさらに詳細に解析する。
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Causes of Carryover |
当初、トロンボモジュリン(TM)の中枢神経保護作用を確認するため、新生児仮死ラットモデルとしてRiceらの方法に準じ実験を行った。しかし、脳傷害の発生率が60%程度と低く、TMの有効性を示すには多くの実験動物を必要とした。また脳傷害の範囲を通常の組織染色で決定するには境界が不確実で、高額なTM製剤で実験を重ねることは動物倫理と研究費で難しいと判断した。そのため確実な動物モデルとして成熟ラットの中大脳動脈閉塞モデル、染色法としてTTC染色することで確実性が高く傷害範囲を明瞭に示せた。また、NIH-ImageJを用い、傷害面積を統計学的に解析でき、TM投与群で、皮質領域で有意な効果が確認でき、また線条体領域でも有意差はなかったが傷害面積の減少がみられた。これら一連の研究に多くの時間を要し、次年度の予算執行はその結果を得て継続する方がよりよいと判断したため次年度へ研究費を繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
トロンボモジュリン(TM)の中枢神経保護作用の検証には中大脳動脈閉鎖とTTC染色が有用であることが判明した。したがって、①投与例数を増やしより確実な結果を得る。④現TM投与量はラットのDIC治療量であることから、中枢神経保護効果のTM投与量および投与時期を検証する②脳スライス数を増やし、Apoptosisの病態とTMによる阻止効果を免疫染色で確認する(TTC染色標本は他の染色法の併用できない。そのため前後のスライス標本を用いる)。③幼弱ラットで中大脳動脈結紮と低酸素負荷を行い、TMの脳保護作用を確認する。④低温療法との併用実験を進める。上記の実験に再度、動物倫理委員会の承認手続きとTMの追加試薬提供が必要で、後者はすでに手続きは完了した。
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Research Products
(12 results)