2016 Fiscal Year Research-status Report
低酸素性虚血性脳症に対する新規トロンボモジュリンによる脳保護作用の解明
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26461640
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
高橋 幸博 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (60142379)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西久保 敏也 奈良県立医科大学, 医学部, 病院教授 (20208169)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 新生児重症仮死 / 低酸素性虚血性脳症 / 遺伝子組換えトロンボモジュリン / 神経保護作用 / 播種性血管内凝固 |
Outline of Annual Research Achievements |
播種性血管内凝固(DIC)治療薬として開発された遺伝子組換えトロンボモジュリン(rTM)を、重症新生児仮死に伴うDICに使用したところ、DICの病態の改善に加えて、低酸素性虚血性脳症に伴う脳神経障害に対して神経保護効果を有することを臨床観察から経験した。発症時期や病因が異なる臨床観察であることから、動物実験でrTMの神経保護作用を検証した。方法は再現性の得られるKoizumiの方法に準拠し、ラット内頚動脈(MCA)永久結紮モデルを用いた。MCA結紮後にラットの尾静脈からrTM(ラットでのDIC治療実験に要した投与量3mg/kg)を投与した群 (rTM投与群)と、対照として同投与容量の生理食塩水を投与した群(対照群)との間で比較した。MCA結紮rTM投与後6時間後で、脳の皮質領域で、TTC染色で識別した壊死層の有意な減少が確認された。しかし、6時間後ではPetulloらの方法に準じた神経運動機能評価で有意な改善はなかった。さらに24時間後で検証した。24時間後ではMCA結紮側で肥大した脳浮腫がTM投与群で対照群と比較し有意に減少していた。また、rTM投与群で対照群と比較し有意に神経運動機能が改善していた。さらにrtM投与をMCA結紮後と6時間後の2回反復投与を行い24時間後で脳組織の変化を観察した。しかし、脳浮腫の軽減効果はなかった。要因として、rTMは発症早期に有効であるが、一旦形成された傷害に対して再投与を行っても効果が乏しいと考えられた。また、rTM投与に際し、5mL/kgの容量負荷がかかることから、再投与で過剰の水分負荷がかかることで効果に影響したと考えられた。現在、上記実験で得られた血液および病理組織の解析を行っている。また、これまでの研究成果をまとめた論文を作成中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重症新生児仮死に伴う低酸素性虚血性脳症(HIE)は、新生児の生命および神経運動予後にとって最も重要な疾患である。また、重症新生児仮死は、われわれが全国調査した新生児播種性血管内凝固(DIC)の主たる原因疾患の一つでもある。一方、遺伝仕組換えトロンボモジュリン(rTM)製剤は、わが国で開発されたDIC治療薬であり、新生児DICの治療にも使用されてきている。これまでのわれわれの臨床研究からrTMがDICのみならず、新生児HIEに対し神経保護作用を有すること経験してきたが臨床的観察であることから確証には至らなかった。本基礎研究から、その効果をさらに確実なものと考えられた。推定される作用機序は、同薬剤が有する抗炎症作用である。抗炎症効果の機序として、一つはDICで過剰に産生されるトロンビン(Th)とrTMとが結合し、Thの有する凝固作用や血小板活性化作用を中和し、同時にrTMとThとの複合体がプロテインCを活性化し、活性化プロテインC(APC)が、凝固を加速度的に促進させる活性化V因子、Ⅷ因子を分解させるだけでなく、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)を介しての神経保作用で、他は、rTMのアミノ末端にあるレクチンドメインによる抗HMGB-1作用による神経保護作用である。同作用機序は、本研究を進める中で、近年、他の研究機関から、それぞれAPC(3A3K改変体)を用いた動物実験、抗HMGB-1抗体を用いた動物実験で示されてきている。これらは動物実験の域をでていない。しかし、rTMは既に新生児DIC治療薬として臨牀使用されており、安全性・有効性が示されている。神経保護作用も期待できるのであれば今後の新生児医療には重要と考える。そのため、これまでの研究成果を論文としてまとめている。課題は、予算から実験数が少ないこと、複数回投与で期待される効果が得られなかったことで今後の検討課題と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝子組換えトロンボモジュリン(rTM)が、新生児DIC治療に用いられており、その安全性および有効性が既に報告されている。同薬剤が重症新生児仮死に伴う脳障害に対し神経保護作用を有することを確実なものとなれば新生児医療の発展に寄与すると考える。そのためには、作用機序を含めた基礎研究が必要であり、動物実験で得られた血清および病理標本を用いて、さらなる解析を進める。また、今後の研究では、実際、われわれの施設での臨牀解析で、重症新生児仮死に伴うDICに対し、rTMを使用することで、従来の低体温療法での臨床経験と比較して、発達予後の顕著な改善を得ている。しかし、本薬剤によっても傷害を残した症例では、脳穿通枝のような微少血管での傷害があり、そのためには同薬剤の投与法や新たに神経再生医療との併用療法についても今後研究を進める必要があると考える。
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Causes of Carryover |
遺伝子組換えトロンボモジュリン(rTM)の重症新生児仮死に合併する低酸素性虚血性脳症による脳障害に対する神経保護作用をラット中大脳動脈永久結紮モデルで結紮後の単回投与で明らかにしてきた。その後、さらなる効果を期待し、rTM投与を複数回投与実験を行った。投与量は単回投与実験での3mg/kgとし、従来の結紮後直後と結紮後6時間後の2回投与を行った。しかし、神経運動機能及び脳病理解析で予想された効果は得られなかった。その要因を明らかにしたうえで、次の実験を計画するために、次年度使用額が生じた。現時点での解析ではrTMの再投与の6時間後では、、永久結紮モデルであることから、既に6時間を経過しており神経保護効果が得難い状況であった可能性があること、また、rTMの3mg/kgを静脈内投与するために5ml/kgの容量負荷が影響したと考えられる。貴重な予算であり、次回実験計画を再度検討する必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
確実なrTMの神経保護効果を検証するために、ラットの中大脳動脈永久結紮モデルで検討してきた。これまでの実験結果から、動物実験モデルの作成は確実なあることが検証された。そこで残された予算もあり、一旦、中大脳動脈にナイロン糸を留置した後。ナイロン糸を抜去することで虚血再灌流実験、あるいは現在の投与量が抗DIC治療薬の開発時の投与設定量であり、初回投与量を増減実験を計画している。
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Research Products
(9 results)