2014 Fiscal Year Research-status Report
SERPINB7の機能解析に基づく長島型掌蹠角化症の病態解明と治療薬開発
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26461701
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
塩濱 愛子 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (40383731)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 貴史 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70306843)
久保 亮治 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70335256)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 皮膚遺伝学 / 遺伝性角化症 |
Outline of Annual Research Achievements |
長島型掌蹠角化症(NPPK)は幼少時に発症する遺伝性疾患で、紅みを伴う非進行性の境界明瞭な軽度の過角化、手背・手首内側・足背・アキレス腱部にまで皮疹が及び、多汗を伴うことが多い、などの特徴を示す掌蹠角化症である。NPPKは生命に影響を及ぼす疾患ではないが、特徴的な手足の角化性紅斑や、高率に掌蹠多汗症を伴うため足白癬を合併して悪臭を伴うなど、患者のQOLに影響を及ぼしており、原因遺伝子の同定、発症機序の解明、そして治療法の開発が望まれていた。申請者らは、血縁関係のない3人のNPPK患者を次世代シーケンサーで解析をした結果、3人から共通してSERPINB7遺伝子の機能喪失型変異である事を同定したことから、SERPINB7遺伝子変異がNPPKの原因遺伝子である事を同定した。原因遺伝子が同定されたことにより、発症機序の推定が可能となった。 本課題ではNPPKの発症機序を解明し治療薬開発のための基盤技術創成を目指している。SERPINB7タンパクはプロテアーゼインヒビターSERPINファミリーに属するタンパク質で、その発現部位は表皮顆粒層に限られた特徴ある発現パターンを示すことから、角層形成過程でプロテアーゼを阻害する役割を担っており、その阻害機能欠損によってNPPKが発症すると予測された。また、現在のところ標的プロテアーゼも不明であり、これらも解析を進めていく必要があると考えられる。 そこで初年度である平成26年度では [1] 表皮特異的SERPINB7欠損マウスの個体化 [2] SERPINB7タンパクの表皮局在解析 [3] 変異未同定NPPK患者の解析を中心に行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
[1] 表皮特異的Serpinb7欠損マウスの樹立 Serpinb7遺伝子コンディショナルノックアウトES細胞をB6Nマウスの受精卵にインジェクションしてキメラマウスを作出後、目的の位置に人工DNAが挿入されていることをPCR法を用いて陽性個体を確認しし、表皮特異的Serpinb7欠損マウスの樹立に成功した。さらにSerpinb7遺伝子を全欠損したB6Jマウス系統の凍結胚を入手及び両アレルとも欠損した個体を作出し、表現型解析を行った。NPPK患者の主な臨床症状は掌蹠に見られるため、Serpinb7遺伝子全欠損マウスの掌蹠を特に着目して検討した。患者では疾患部位を水に浸すことで角質層が白く変質するため、マウスを水浴させて角質層変化を検討したが、Serpinb7遺伝子全欠損マウスでは掌蹠部位を含めた全組織での組織学的な変化は野生型マウスと相違がなかった。 [2] SERPINB7タンパクの表皮局在解析 複数のNPPK患者にて病原性と思われる新規ミスセンス変異を同定し、この変異とナンセンス変異をコンパウンドヘテロ接合で有する患者組織切片を組織免疫染色法にて局在解析を行ったところ、表皮顆粒層細胞内に変異タンパク質が滞留していることを見出した。さらにカイコ発現系SERPINB7タンパクをin vitro性状解析を行ったところ、正常型タンパクは可溶性を示したが、変異挿入タンパクは不溶性であり凝集を起こして沈殿することが判明した。 [3] 変異未同定NPPK患者の解析 NPPK患者のSERPINB7遺伝子領域を詳細に解析した結果、日本人でのSERPINB7ゲノム領域は大きく4アレルに分類され、同一のNPPK変異は同一アレルに存在することを明らかにした。NPPK変異の創始者効果によるものと考えられ、これらのデータを用いることで片アレル変異が未同定であるNPPK患者の変異解読の糸口が見いだせた。
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Strategy for Future Research Activity |
皮膚構造の中でも掌蹠の構造は体幹部と違い角質層が厚いため、未だ不明な点が多く、ヒトとマウスで共通した機能構造をしているのか未解明な部分が多い。四足歩行であるマウスと二足歩行のヒトでは体に対してかかる重心のバランスも異なることは容易に考えられる。今回、Sepinb7全欠損マウスを解析して、ヒトNPPK様の症状が表現型として観察できなかったことを踏まえ、ヒトとマウスでは掌蹠の角質層構造が大きく異なることが予想された。このことから、マウスでの実験モデル系の構築より、in vitroで角化を誘導したケラチノサイトを用いた実験系の構築やヒトの遺伝子型および変異ごとの疾患ゲノム解析を中心に行う。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況に応じて適宜支出させて頂いたが、次年度に繰り越した金額と合わせて消耗品購入を予定する必要が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
消耗品や実験動物購入のため。
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