2014 Fiscal Year Research-status Report
乾燥環境下におけるフィラグリン欠損マウスを用いたアトピー疾患発症機序の解明
Project/Area Number |
26461702
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
川崎 洋 慶應義塾大学, 医学部, 特任助教 (70445344)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塩濱 愛子 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (40383731)
久保 亮治 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (70335256)
天谷 雅行 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (90212563)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 皮膚バリア / アトピー性皮膚炎 / フィラグリン |
Outline of Annual Research Achievements |
皮膚角層の主要な構成タンパク質であるフィラグリンの機能異常がアトピー疾患発症のリスクファクターとして注目されているが、フィラグリン変異を有するだけでアトピー疾患を発症するわけではなく、その発症機序には不明な点が多い。本研究では、乾燥環境がフィラグリン欠損角層の機能を破綻させる機序を解明するとともに、湿度環境がアトピー疾患の発症にどういった意義をもつのかを、フィラグリン欠損マウスを低湿度環境下で飼育するというモデルを用いて検証する。 今年度は、初年度ということで、乾燥環境下においてフィラグリン欠損角層が破綻する機序の解明を目指した。特に、乾燥環境下の角層、表皮変化に関して野生型皮膚とフィラグリン欠損皮膚間の違いに関する形態学的な検討に力を入れて観察、解析した。光学3D皮膚用測定器Primosや走査型電子顕微鏡などを用いた観察では、フィラグリン欠損角層は野生型マウスの角層に比べて乾燥環境下で裂隙が生じやすいことがわかり、それは角層水分脱失に伴う可塑性の低下ともともとフィラグリン角層の物理的脆弱性から生じる現象であることが示唆された。また、蛍光色素を用いた角層の物質透過試験では、乾燥下のフィラグリン欠損角層が色素が全層性に浸透するというよりは、上記減少に関連して裂隙を生じた部位を中心に浸透していく像が優位に観察された。今後は本事象をライブイメージングして見る系の構築を目指していく。そして、この角層破綻モデルが、経皮的抗原感作という要素を伴って皮膚炎やアトピー疾患の発症につながるしくみの解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、乾燥環境がフィラグリン欠損角層の機能を破綻させる機序を解明するとともに、湿度環境がアトピー疾患の発症にどういった意義をもつのかを、フィラグリン欠損マウスを低湿度環境下で飼育するというモデルを用いて検証することを目指している。初年度は、乾燥環境がフィラグリン欠損角層に与える影響を多角的に解析し、乾燥環境により生じるフィラグリン欠損皮膚最大の表現型である、落屑の増悪と物質透過性が亢進する機序の解明を目指した。そして(研究実績の概要)にて記したように、一定の成果を挙げることができた。フィラグリンの意義にもつながるこの基礎的検討は、今後フィラグリン欠損という角層バリア破綻が、乾燥環境という要因の関与を受けて、いかにアトピー疾患の発症へと導かれるのかを考える際の基盤となると考えられ非常に重要である。したがって、初年度の研究成果として考えれば、これまでのところおおむね順調に進展している、と評価できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に観察した、乾燥環境下で増悪するフィラグリン欠損角層での物質透過のしくみを、より詳細に理解するために、マウスの耳をライブイメージングして物質の角層透過性をモニタリングする系を構築することを目指す。その際、理化学研究所皮膚恒常性研究チームの松井毅上級研究員に協力を仰ぐ予定である。本研究で用いる角層バリア破綻モデルにおいて、物質がどのように通過していくかの詳細が分かれば、それを防ぐための製剤開発などにつながり、大きな意義があると考える。 また、乾燥環境下で破綻したフィラグリン欠損角層に抗原を塗布することで皮膚炎やアトピー疾患を発症する系の構築を目指している。現時点で、抗原としてOVAを用いることで全身性の抗原感作を誘導することには成功しているものの、アトピー性皮膚炎様の病態を再現することには至っていない。今後は、フィラグリン欠損と皮膚乾燥というそれぞれの要素と“かゆみ”という部分に着目することにより、皮膚炎発症を導くことを検討している。また、本研究が目指すアトピー疾患発症機序の解明という観点からは、皮膚での炎症解析にこだわらず、気道など他臓器における炎症発症という部分にも目を向けていく予定である。
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Causes of Carryover |
今回は初年度であり、アトピー疾患発症機序の解明を目指したマウスモデルの確立やその解析よりも、乾燥環境下でフィラグリン欠損皮膚の角層機能がどのように破綻していくのかという、より基礎的部分の解析に力を入れた。そのため、当初に予定していたよりも動物の使用が少なくすみ、また高額な試薬を使用することなく研究を進めることができた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、初年度に得た知見を元に、アトピー疾患の発症機序により迫る研究を展開したいと考えている。そのため、初年度よりもマウスの使用量が増え、また炎症発症機序の解析のために多くの試薬の購入が必要となることが予想される。また、研究をスムーズに施行するための研究打合せや学会参加の数が増えることが予想される。
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