2014 Fiscal Year Research-status Report
回復するうつ病治療:治癒阻害因子から解明する脳神経回路網修復促進ストラテジー
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26461723
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
橋本 恵理 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (30301401)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 美佐 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所, 研究員 (10384182)
鵜飼 渉 札幌医科大学, 医学部, 講師 (40381256)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 神経科学 / 脳・神経 / 精神疾患 / うつ病 / 難治性うつ病 / 神経新生 / 神経幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、回復するうつ病治療のためのストラテジーを、治癒阻害因子を回復促進へ活かすという視点から組み立て、臨床応用へと結びつけることを目的としている。我々はこれまでの研究で、アルコールが神経新生抑制作用を有し、抗うつ薬による神経新生促成を阻害することを明らかにしており、難治例を含むうつ病に対し、何よりも求められている「回復する治療」を考える上で、アルコールがうつ病治癒阻害因子として働く可能性に着目した。本研究では、まず、アルコール曝露による神経回路網障害を有する胎児性アルコール・スペクトラム障害モデルラットを利用して、胎児期と若年期の二重のストレスを組み合わせた難治性うつ病モデルラットを作製した。行動薬理学的解析の結果、強制水泳試験において本モデルの無動時間は、通常のコルチコステロン投与によるうつ病モデル群よりも有意に延長した。また、抗うつ薬(SSRI)の単独投与により、うつ病モデル群において無動時間の有意な短縮がみられたのに比べ、難治性うつ病モデル群では抗うつ薬処理により無動時間の変化は認められず、すなわち、難治性うつ病モデルとしての有用性が確認された。本モデルに対する、神経幹細胞移植の治療効果に関しても確認しているが、将来的な応用の可能性も踏まえて、現在更に詳細な検索を進めているところである。また、並行して同様の観点から、臨床研究の一部に着手した。すなわち、問題飲酒のスクリーニングに使用されるAUDIT質問票を用いて、治療前および治療中のうつ病患者の飲酒状況を確認し、抗うつ薬の臨床効果への飲酒の影響を解析した。アルコール使用障害がある群では抗うつ薬治療による改善度が有意に低く、アルコールがうつ病治癒阻害因子として働いていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
うつ病治癒阻害因子として、アルコールによる神経新生抑制作用に注目し、当初の計画通り、妊娠期のアルコール曝露による神経回路網障害を有する胎児性アルコール・スペクトラム障害モデル動物にさらに若年期の一定期間コルチコステロンを投与する方法で、胎児期と若年期の二重のストレスを組み合わせた難治性うつ病モデルの作製を行った。通常の慢性コルチコステロン投与によるうつ病モデルを比較対象として、強制水泳試験を用いた行動薬理学的解析を行い、難治性うつ病モデルとしての有用性が確認された。さらに本モデルに対する、抗うつ薬投与よりも有用な治療法として、神経幹細胞移植の効果に関する検索も順調に進んでいる。また、当初、平成28年度に計画していた臨床研究にも一部着手した。アルコール使用障害があるうつ病患者群では抗うつ薬治療による改善度が有意に低く、アルコールがうつ病治癒阻害因子として働いていることが示唆された。この点は当初の予定以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の研究成果のひとつとして、難治性うつ病モデルに対しては、抗うつ薬単独投与では治療効果が認められないことを見出した。よって、この難治性病態からの回復を目指すためには、次の段階として、単なる抗うつ薬投与ではない新たな治療的対策の検討が必要である。うつ病の回復において、適切な治療が脳機能に作用し、脳が変化することで思考・感情や行動が変わっていくというプロセスにおいては、ダイナミックな脳神経回路網の再構成が必要となる。そこで、神経新生促進因子の活用という観点から新たな治療効果をもたらすことが期待されるものとして、神経幹細胞移植もしくは同移植と抗うつ薬投与との併用があげられる。よって、今後、今回作製した難治性うつ病モデルを用いて、それぞれの効果を解析していく。さらに、神経回路網の修復・再生を目指した治療に関する研究を進める上では、当然のことながら、神経幹細胞から神経細胞への分化促進のための分子ターゲットの同定やその動向の把握も重要であり、本研究では関連する分子病態の検索もあわせて行っていく。また、難治性うつ病の治癒阻害因子として、グリア機能異常にも着目しており、グリア細胞を用いて、特定の因子が関わる細胞毒性作用のメカニズムの検討も進めていく。
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Causes of Carryover |
本研究の骨子のひとつである、アルコールがうつ病治癒阻害因子として働いていることをうつ病患者において明らかにするため、当初平成28年度での遂行を予定していた臨床研究の一部に平成26年度から着手した。そのため、研究実施計画の順番などを若干変更し、モデル動物を使用する検討の一部を次年度に行う予定とし、その分の実験動物関係の消耗品費を次年度に使用する計画とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前述の理由で平成26年度に一部使用を控えた消耗品費に次年度使用額をあてることとし、具体的には、研究遂行に必要不可欠な神経幹細胞の培養や神経細胞機能評価に用いる試薬、モデル動物の行動学的研究に必要な実験動物、実験器具類の購入・維持に必要な経費を使用する予定である。また、国内外での研究成果発表のための費用を年間数件程度見込んでいる。現時点では平成27年開催の学会KSBMBおよびCINPでの発表が既に決まっており、そのための旅費、参加費として使用予定である。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] 胎児期アルコール暴露と成長後のストレスを組み合わせた難治性うつ病モデルにおける神経幹細胞移植療法の有用性2015
Author(s)
鵜飼渉, 木川昌康, 石井貴男, 古瀬研吾, 辻野華子, 岩本倫, 田山真矢, 白石将毅, 橋本恵理, 河西千秋, 齋藤利和
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Journal Title
アルコールと医生物
Volume: 33
Pages: 39-44
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