2014 Fiscal Year Research-status Report
複合体ダイナミクスと機能プロテオミクスの融合による放射線感受性制御機構の解明
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26461880
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
榎本 敦 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (20323602)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プロテオーム / 放射線感受性 / 放射線応答 / STK38 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線によるDNA損傷は、様々な細胞内のシグナル伝達経路を活性化させ、細胞周期制御、細胞死、DNA修復などの細胞応答を誘導する。DNA損傷シグナルに関わる個々の因子は多数知られているが、その複合体形成やその機能的な意義に関してはほとんどが未解明である。研究代表者は、これまで放射線感受性制御に関わる因子としてタンパク質リン酸化酵素の1種であるSTK38を同定した。そして、これまで、様々な癌細胞株において高いSTK38活性が保持されていること、STK38がX線や過酸化水素などの酸化ストレス特異的に活性化されること、STK38のノックダウンは顕著な放射線増感を誘導することなどを報告してきた。 今回、STK38の放射線感受性制御に関わる意義を明らかにするために複合体形成プロテオーム解析を駆使してSTK38の相互作用因子や基質探索を行い、これまでに、in vitroにおける相互作用・基質候補として30種以上のタンパク質を同定した。これらの因子の中には、DNA損傷誘発の細胞周期制御に重要な役割を担うCDC25Aが含まれていた。CDC25Aは不安定なタンパク質であり、DNA損傷などによって分解が促進され、それが機となりG2期停止が誘導される(G2チェックポイント)。そしてSTK38がCDC25Aを直接リン酸化すること、そのリン酸部位を変異させることによりCDC25Aのタンパク質安定性が向上することを明らかにした。さらにSTK38をノックダウンした細胞では、DNA損傷誘発のG2チェックポイントの活性化が起こりにくくなっていた。これらのことから、放射線によるSTK38の活性化は、DNA損傷によるCDC25Aの分解とそれを機としたG2チェックポイントの活性化に必要であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における第1段階の目標は、生理的条件下における放射線シグナル応答因子の複合体をプロテオーム解析により同定することにある。研究代表者は、放射線感受性制御因子STK38を起点(Bait)として、放射線照射後の様々な経時的変化の中における相互作用因子を生理的な条件下で精製、電気泳動による分離を行い、網羅的にタンパク質の同定を進めている。これまでに細胞周期制御因子CDC25AとSTK38が結合し、M期で共局在化すること、STK38がCDC25Aを直接リン酸化することなどを見出した。さらにCDC25AのSTK38によるリン酸化部位の変異体は、野生型に比べてタンパク質の安定性が亢進していることが判明した。またSTK38をノックダウンした細胞では、DNA損傷誘発のG2チェックポイントの活性化が起こりにくくなっていた。これらのことから、放射線によるSTK38の活性化は、DNA損傷によるCDC25Aの分解とそれを機としたG2チェックポイントの活性化に必要であることが判明した。現在、STK38によるCDC25Aの安定性・細胞周期制御に関してデータをまとめ、論文を投稿している。 一方で、いくつかのSTK38相互作用因子に関しては、STK38によってリン酸化されることは判明したが、その部位が多数あることが予想されたり、作製したリン酸化抗体が機能しないなどの問題点も浮き彫りとなった。複数のリン酸化部位がある場合には、放射線によってリン酸化される部位を詳細にマッピングすることや他の刺激との特異性・重複などを解析して絞り込みを行う。リン酸化抗体については、エピトープの領域を広げる・宿主を変更するなどして、特異性を高める工夫を凝らすことにより問題解決に当たる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに放射線感受性制御因子STK38と複合体を形成する多数の因子を見出している。これらの因子について質量分析法により同定を進め、そのタンパク質をコードする遺伝子の過剰発現もしくはsiRNA発現ベクターを構築する。ヒト癌細胞株を用いて、その候補因子の遺伝子操作(過剰発現/発現抑制)を行い、放射線に対する感受性をコロニー形成法により解析する。そして候補因子のSTK38基質としての可能性をin vitro kinase assayにより検討し、リン酸化される場合は、その部位を同定してアラニン置換による放射線感受性への影響を解析する。これらの結果を踏まえて、STK38シグナルにおける放射線感受性制御因子を決定する。次にSTK38ノックダウンおよび同定した感受性制御因子の遺伝子操作による放射線応答への影響について解析する。具体的には、DNA二重鎖切断のマーカーであるγ-H2AX を指標としたDNA修復能、フローサイトメーターを用いた細胞周期分布や細胞死の解析を通じて、STK38ノックダウンによる放射線増感のトリガーがどの応答プロセスの破綻によるものかを明らかにする。さらに放射線照射による活性化STK38複合体のダイナミクスと線量、時間軸や応答誘導との時空間的な相関を解析し、STK38によるDNA損傷応答の制御機構を明らかにする。さらに、バイオインフォマティックスを駆使した既知DNA損傷シグナルネットワークにおけるSTK38シグナルの位置づけおよび相互作用などについてシミュレーションを行い、細胞の持つ損傷応答における選択性・優先順位についてのモデルを探索する。
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Causes of Carryover |
予備実験が順調にいき、条件検討に費やす予定であった試薬代・抗体購入費を節約できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度の未使用分は、追加の試薬代・抗体購入費用に充てる。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] PI-3K/mTOR pathway inhibition overcomes radioresistance via suppression of the HIF1-alpha/VEGF pathway in endometrial cancer2015
Author(s)
A. Miyasaka, K. Oda, Y. Ikeda, K. Sone, T. Fukuda, K. Inaba, C. Makii, A. Enomoto, N. Hosoya, M. Tanikawa, Y. Uehara, T. Arimoto, H. Kuramoto, O. Wada-Hiraike, K. Miyagawa, T. Yano, K. Kawana, Y. Osuga, T. Fujii
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Journal Title
Gynecologic Oncology
Volume: 印刷中
Pages: 印刷中
DOI
Peer Reviewed
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