2014 Fiscal Year Research-status Report
ヒト膵癌幹細胞とES/iPS細胞を使った微小環境構築に関する研究
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26462059
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
清水 一也 神戸大学, 保健学研究科, 研究員 (50335353)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀 裕一 神戸大学, 保健学研究科, 教授 (80248004)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 膵臓がん / がん幹細胞 / がん微小環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の全体構想は膵癌幹細胞とその微小環境を標的とする新しい治療法を開発することである。我々は既存の抗がん剤耐性の進行膵癌患者から20種類の膵癌幹細胞株を樹立し、CD133が癌幹細胞マーカーとなりうることを明らかにした(Shimizu et al. PLoS One, 2013)。また、正常膵組織幹細胞やヒト膵癌組織内の一部の細胞が幹細胞マーカー(CD133)を発現することを明らかにしてきた(Stem Cells 2008; Pancreas 2009; Pathobiology 2011)。本研究では、我々が樹立した初代ヒト膵癌幹細胞株を使って微小環境を再構築し、癌細胞の増殖機構を分子レベルで解明し、新規治療薬の開発を目指している。 当該年度では、膵癌幹細胞株とfeeder細胞の接着により発現調節をうける因子の同定をおこなった。 マウスstroma細胞との共培養でヒト膵管状腺癌に酷似したコロニー形成(CD133陽性腺管形成、粘液産生能、heterogeneity)を認めた。また、膵癌幹細胞株とfeeder細胞の細胞接着によりfeeder細胞に基底膜の主成分であるラミニンの発現誘導を認めた。さらに、ラミニンコートしたプレート上で特定の条件で培養すると、feeder細胞非依存性に膵癌幹細胞株が生育することを確認した。癌幹細胞側とfeeder細胞側の因子をそれぞれ同定するために、各種阻害剤を投与したところ、NOTCH阻害剤投与により、in vitroやin vivoでの癌細胞の増殖が抑制された。また、feeder細胞の遺伝子発現を抑制する方法で、この癌細胞増殖抑制には微小環境を構築する間質細胞の関与が重要であることを証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、我々が樹立した初代ヒト膵癌幹細胞株を使って微小環境を再構築し、癌細胞の増殖機構を分子レベルで解明し、新規治療薬の開発を目指すことを目的としており、初年度はまず初めに、我々が樹立したヒト膵癌幹細胞株(Shimizu et al. PLoS One, 2013)とfeeder細胞の接着により発現調節をうける因子の同定を行なった。その結果、膵癌を取り巻く微小環境由来の細胞におけるNOTCHシグナル伝達経路を明らかにすることができた。また、このNOTCHシグナルが癌細胞の増殖にとって重要であることも証明した。さらに、この経路が細胞外基質であるラミニンの発現を調節して促進されることまで明らかにした。これまでの報告では、癌細胞におけるNOTCHシグナルの関与に関するものがほとんどであり、微小環境すなわちニッチにおけるNOTCHシグナルの重要性を証明できたことは極めて新規性に富んでいる。一方、我々は新規治療薬の開発を目指すために、in vivoにおけるヒト膵癌幹細胞株の移植実験を行なっているが、免疫不全マウスを用いた実験系には様々な点で制限がかかる。そこで、マウスCD133陽性細胞を分離してKRAS変異遺伝子を含む遺伝子を導入することにより、マウス膵癌幹細胞株を樹立することにも成功している。予備実験の結果から、マウス膵癌幹細胞株はヒト膵癌幹細胞株と類似した性質を持つことが明らかとなった。同様の細胞樹立は報告されておらず、この点についても独創性がある。 以上より、「研究目的」に記載した内容が順調に達成できていると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
多領域の研究から、マウスとヒトでは細胞や微小環境に違いがあることが明らかになっている。癌幹細胞を標的とした新規治療薬の開発のためには、微小環境やニッチとなるfeeder細胞を同一患者から樹立する必要があると考える。本研究ではすでに、インフォームドコンセントを得て、病理解剖時に、正常stroma細胞の樹立に着手している。今後はこれまでの研究成果をふまえて、ヒトCD133陽性膵癌幹細胞株(Shimizu et al. PLoS One, 2013)とヒトfeeder細胞を共培養できる系を樹立し、ヒト-ヒト細胞間接着の影響を検討する。同じクローンでの相互作用を検討することが目標であるが、樹立が難しい際には、市販されているヒトfeeder細胞を購入して実験計画を進める予定である。また、ニッチの形成に関する研究では、マウスES細胞とヒト膵癌幹細胞株あるいはマウスES細胞とマウス膵癌幹細胞株との培養による相互作用でどのような微小環境(ニッチ)が再構成されるのかを解析する。さらに、ヒト-ヒト間での研究に発展させるため、同種(allo)ヒトiPS細胞と膵癌幹細胞株を培養することにより、iPS細胞に構成される微小環境を解析する。さらに、iPS細胞と膵癌幹細胞株を蛍光ラベルすることにより、倒立共焦点レーザー顕微鏡や多光子レーザー顕微鏡を用いたイメージングもおこなう。これらの研究成果を踏まえて、膵癌患者の正常組織から同種(auto)ヒトiPS細胞の樹立にも着手し、ヒト-ヒト細胞間相互作用の分子機構を解明する予定である。
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