2014 Fiscal Year Research-status Report
放射線照射が硬膜に及ぼす影響 ―照射後髄液漏の原因究明―
Project/Area Number |
26462233
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
村上 英樹 金沢大学, 医学系, 准教授 (70334779)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 放射線傷害 / 硬膜外fibrosis / 髄膜透過性亢進 / 硬膜損傷 / 術後髄液漏 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線照射後の脊椎手術では感染や創治癒遅延などの周術期合併症の発生率が高く、照射による硬膜周囲の癒着が原因と思われる硬膜損傷や術後髄液漏もよく経験される。それゆえ、皮膚や肺などの照射後fibrosisと同様に、硬膜外腔にもfibrosisが発生することが予想され、本研究では硬膜外fibrosisに主眼を置き、照射後の硬膜及び硬膜周囲組織の経時的変化を組織学的に評価した。実験では、ddYマウスの胸腰椎移行部に10Gyおよび20Gyの単回照射を行い、硬膜外fibrosisの発生およびfiborosis発生の中心的役割を果たすとされるTGF-β1の発現量を調査した。また、電子顕微鏡による硬膜微細構造の評価も併せて行った。 その結果、20Gy照射群では照射後8週頃より硬膜外fibrosisが発生し始め、16週以降は全例で硬膜外fibrosisの発生が観察された。10Gy照射群でも照射後16週以降に硬膜外fibrosisが散見された。TGF-β1は10Gy、20Gy 照射群ともに照射後1週および照射後晩期に過剰発現していた。電子顕微鏡所見としては、硬膜自体に明らかな変化は観察されなかったが、くも膜の最外層であるarachnoid barrier cell層が照射後1週で肥大化し、照射後12週、24週で菲薄化していた。このarachnoid barrier cell層は細胞間にtight junctionを有し髄膜透過性に強く関与すると考えられている。 以上より、放射線照射により硬膜外にfibrosisが誘発されることが確認され、特に高線量照射によりfibrosisが発生しやすいことが判明した。また、arachnoid barrier cell層の菲薄化により髄膜透過性が亢進する可能性が示唆された。これらの現象は、放射線照射後手術における硬膜損傷や術後髄液漏の発生要因となる可能性があると考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
放射線照射による硬膜および硬膜周囲組織に起こる変化として①照射後晩期での硬膜外fibrosisの発生とTGF-β1の過剰発現②arachnoid barrier cell層の菲薄化が確認された。これらの現象は、当初の研究目的である照射後手術術後髄液漏の発生メカニズムの解明につながる重要な知見である。また、日本整形外科基礎学会や日本脊椎脊髄病学会などの国内主要学会で研究成果を発表し、十分に意見交換を行った。以上より、本研究はおおむね計画どおりに順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
さらに検体数を増やし、得られた知見の信頼性を高めるとともに、単回照射だけでなく分割照射での評価も追加する。また、当初の計画通り細胞外マトリックス分解酵素であるMMP-1およびその阻害因子であるTIMP-1、そしてcollagenの発現量を免疫染色にて経時的に評価していく。前年度研究で得られたデータとともに解析を行い、研究成果を国内外の学会で発表していく予定である。
|
Causes of Carryover |
平成26年度は効率的な予算の執行と実験計画の若干の遅れにより、101,400円が未使用となった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後はさらに検体数を増やし、単回照射だけでなく分割照射での評価も追加する予定である。また、当初の計画通り細胞外マトリックス分解酵素であるMMP-1およびその阻害因子であるTIMP-1、そしてcollagenの発現量を免疫染色にて経時的に評価していく。そのため、研究費は実験動物の購入や免疫染色の費用などに使用する予定である。また、国内外の学会参加費や論文の校正、投稿費にも使用する予定である。
|