2015 Fiscal Year Research-status Report
全身麻酔薬が糖尿病環境下にある癌細胞の増殖能に与える影響
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26462344
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
瓦口 至孝 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (90433333)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 全身麻酔薬 / 高血糖 / 増殖能 / 活性酸素種 / ヒト癌細胞株 |
Outline of Annual Research Achievements |
虚血再灌流傷害に対してpreconditioning効果を発揮するセボフルランおよびイソフルランが、心臓や肝臓などの腫瘍臓器と同様に活性酸素種(ROS)の一時的な上昇を来すことで細胞保護シグナルを誘導するかを検討した。1または2%のセボフルランおよびイソフルランをヒト肝臓癌細胞株HepG2に曝露し、1時間後と3時間後に細胞内ROS濃度を測定した。2%セボフルラン曝露1時間で有意な細胞内ROS濃度上昇が見られたが、3時間後ではその効果は消失していた。 次にROS濃度の一時的な上昇が細胞保護的に作用するかを調べるために、虚血再灌流傷害の代わりに500μM過酸化水素(H2O2)6時間曝露により酸化ストレスを誘導し、それに対する保護効果が見られるかをMTTアッセイおよびCaspase 3活性を用いて検討した。2%セボフルラン3時間曝露は、その後のH2O2による酸化ストレスに対して保護効果を発揮しなかった。逆に2%セボフルラン3時間曝露は、その6時間後のCaspase 3活性を有意に上昇させ、保護効果よりむしろアポトーシスを誘導する可能性が示唆された。 さらに高血糖環境における癌細胞に対するセボフルランの影響を調べるにあたり、まずコントロール(グルコース100mg/dl)に対してグルコース200mg/dlおよび浸透圧の影響を考慮するためにグルコース100mg/dlにマニトール100mg/dlを加えた状態における細胞内ROS濃度を測定した。曝露3時間後の細胞内ROS濃度はグルコース200mg/dl群およびグルコース100mg/dlマニトール100mg/dl群ともにコントロール群に比較して低いことが分かり、グルコース濃度というよりは浸透圧の上昇がROS濃度を低下させる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の研究実績でグルコース300mg/dl+インスリン0.05mg/mlの条件下で1%セボフルラン6時間曝露がHepG2細胞の増殖能を亢進することを見出しており、Warburg効果も踏まえて高血糖が癌細胞に与える影響について着目していた。27年度は細胞内ROS濃度の検討を中心に行い、他の研究とは異なる結果もあるがセボフルラン曝露により癌細胞においても一時的なROS上昇が誘導されるという新しい知見を得ることが出来ている。当初の研究計画のように動物実験を始めるまでの結果は我々のin vitro実験で得られていないが、いくつか論文も発表出来ており、これらは28年度の実験進行に繋がっている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度も引き続き高血糖環境に注目し、癌細胞に対する全身麻酔薬の影響を検討する。27年度の結果で、グルコース200mg/dl群およびグルコース100mg/dl+マニトール100mg/dl群ともにコントロール群(グルコース100mg/dl)に比較して細胞内ROS低いことが分かったため、このROS濃度低下がスーパーオキシドディスムターゼなどの抗酸化酵素活性の上昇によるものかどうかをOxiSelect Superoxide Dismutase Activity Assayキットを用いて検討する。また、ROS濃度の低下は細胞増殖能抑制に繋がる可能性があるため、グルコース200mg/dl群およびグルコース100mg/dl+マニトール100mg/dl群ともに24時間または72時間経過した時点での細胞viabilityについてMTTアッセイを用いて再検討する。 同様に、2%セボフルラン曝露1時間での一時的なROS上昇を見出したが、3時間後におけるROS濃度のベースラインへの復帰がスーパーオキシドディスムターゼの上昇によるものかどうかを検討する。 上記実験において吸入麻酔薬および高血糖それぞれがROSへの作用を介する癌細胞への影響が確定すれば、高血糖環境下に吸入麻酔薬が酸化ストレスを受けた癌細胞にどのような影響を与えるかについて整理する。さらに、血糖の直接的な影響ではなく浸透圧が関係していることも予想されるため、吸入麻酔薬の癌細胞への影響が浸透圧の変化によって異なるかどうかについても検討を行う予定である。
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Causes of Carryover |
消耗品の使用に注意し可能な限り有効に実験を遂行出来るよう心がけたこと、また当初予定していた動物実験からin vitroの研究に変更となったために若干研究コストを低く抑えることとなった。また、学会発表も見送ったことで旅費の分を使用しなかったことも一因と考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度はOxiSelect Superoxide Dismutase Activity Assayキットを購入しているが、1キットあたりのコストが高く(1キット10万円程度)研究費がかかることが予想される。また、ピペット類なども定期メンテナンスを行っているが全体的に老朽化が認められるため、必要に応じて購入する必要が出て来る可能性が見込まれる。最終年度であるため論文化出来るデータを得るために適宜研究計画を見直し必要な実験を行い、学会発表にて成果を出していく予定である。
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