2015 Fiscal Year Research-status Report
加齢卵母細胞における核小体構造の解析とSUMO化の生理的意義の検討
Project/Area Number |
26462471
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井原 基公 東北大学, 大学病院, 助教 (50403506)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宇都宮 裕貴 東北大学, 大学病院, 准教授 (10359507) [Withdrawn]
立花 眞仁 東北大学, 大学病院, 助教 (30431571)
坂本 雅弘 東北大学, 大学病院, 技能補佐員 (50645299)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 卵母細胞 / SUMO / Basonuclin1 / NLB |
Outline of Annual Research Achievements |
卵母細胞の成熟過程における卵胞発育障害は早発閉経や高齢不妊患者において治療困難な病因であり、それらの大半は原因不明である。ヒトにおいてもGV期卵母細胞の核小体様構造(NLB: Nucleolus-like body)は片親(卵母細胞)のみに由来し、NLBが欠損すると第一分割で染色体分離異常を示す。したがって加齢による受精率・胚発生率の低下や染色体不分離の原因の一端は、NLBに存在する蛋白やRNAの量的・質的変化によって引き起こされる可能性がある。本研究は卵母細胞特異的なNLB構成因子の翻訳後修飾SUMO化に焦点を当て、SUMO化による細胞機能の制御機構を分子レベルで解析し、不妊症の原因の一端を明らかにすることを目的としている。タンパク質翻訳後修飾の制御破綻はさまざまな病因・病態に深く関与する。卵母細胞特異的なNLB構成因子の翻訳後修飾がどのようにNLBの機能を制御しているか不明であるが、生殖細胞とkeratinocyte特異的に高発現するBasonuclin1 (Bnc1)がSUMO化され、マウス卵母細胞において転写活性が高い場合にNLBに局在することを明らかにしたことから、平成26年度に引き続きBnc1新規蛋白質の同定を試みた。MS解析の結果からいくつかの蛋白質に対して生化学的・分子生物学的に解析中であるが、新規結合蛋白質としてSUMO化促進酵素であるPIAS4(PIASy)が新たに同定された。生化学的解析から、PIAS4はSUMO-1でもSUMO-2/3でも同様にBnc1のSUMO化を促進することが明らかになった。また、Bnc1に核小体局在シグナルが存在することや、一部のSUMO化される残基を同定した。従ってBnc1がNLBにおいて機能し、SUMO化反応が重要な意義を有していることが示唆された。また、ある試薬によってBnc1が核内移行する比率が高くなることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、加齢変化と卵母細胞特異的なNLB(Nucleolus-like body)構成因子の関連性を解析し、NLB構成因子のSUMO(small ubiquitin-related modifier)化による細胞機能の制御機構を分子レベルで解析し、不妊症の原因の一端を明らかにすることを目的としている。前年度までにNLB構成因子の1つとしてBnc1を同定しており、今回質量分析によってもBnc1が脱SUMO化修飾だけではなく、SUMO化促進酵素と結合することを明らかにした。この結果はこれまでの知見や推察を裏付けし、SUMO化修飾の生理学的意義は予想以上に高そうである。また、Bnc1のN末に核小体局在シグナルNoLS (Nucleolar Localization signal)が存在することを分子細胞学的に明らかにできたことも、これまでの推察を支持する知見である。Bnc1の機能はもともとribosomal DNAプロモーター領域に結合する転写因子として報告されているが、その詳細な機能は不明のままである。質量分析や生化学的手法による解析によって、これまで得られてきた知見と合わせてBnc1の分子レベルでの機能が少しずつ明らかになってきたことは意義がある。 昨年度FCS血清や成長因子EGF単独ではBnc1の局在変化に影響しないことを明らかにしたが、今年度はある試薬によって細胞質から核内に移行するBnc1の比率が高くなることが判明した。培養細胞とfeeder細胞を用いた実験系のように、未だ卵母細胞におけるBnc1の局在を強力に制御する因子の同定はできていないが、その他の新規結合蛋白質とともに卵母細胞成熟、あるいは維持機構に関与するシグナル伝達経路を明らかにできる可能性が高く、加齢変化による卵の質的変化の一旦を解明できる可能性が高いことは非常に意義がある。
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Strategy for Future Research Activity |
卵母細胞の培養条件は歴史的にも依然試行錯誤して探索中である。顆粒膜細胞を除去したGV期の成熟卵母細胞を用いた場合、さまざまなシグナル伝達経路の刺激がなくなることで転写やRNAプロセッシングが抑制されると考えられるため、転写活性が高い場合にNLBに局在する蛋白質の機能を解析する場合、上述したように実験上の制約が生じる。そのため、転写活性を恒常的に活性化させる条件を確立する必要性があり、現在その条件を検討中である。また、同様な理由から、培養細胞を用いて生化学的にSUMO化の意義について解析を行うが、順調に結果が出ているで、方針を変えず予定通り引き続き解析を続ける。また、卵母細胞において新規結合蛋白質が同定されているので、今後もそれらの蛋白質を同時に解析することで卵母細胞成熟に必要な細胞内シグナル伝達経路の一端を解明する予定である。 最近、次世代型シークエンサーや質量分析器を用いた解析方法やアプリケーションソフトは飛躍的に向上しつつある。そのため、それぞれの専門家と十分協議してタンパク質やRNA精製の方法を再検討する必要があり、そのための条件設定を行う。現在のところ、NLB蛋白量は想定よりも大量に必要そうで、計画の見直しが必要になる可能性がある。卵母細胞を用いるので、今後より定量のサンプルでも解析可能なプロトコールが発表された場合、後戻り可能であれば計画を変更する予定である。 ヒトの38-45歳に相当する60-70週齢マウスを使用するまでには1年半の飼育が必要であるので、当初の計画を遂行するためにマウスを飼育中である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度請求額と合わせ、平成28年度の研究遂行に使用する予定である。
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