2015 Fiscal Year Research-status Report
蝸牛において予想されるTRPM4チャンネルの特異的機能の解明
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26462568
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
村田 潤子 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 招へい准教授 (80332740)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久恒 智博 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (10321803)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | TRPM4 / TRPチャンネル / 蝸牛 / 内有毛細胞 / 血管条 / 聴性脳幹反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
背景と目的:これまで我々はマウス内耳発生の各段階におけるTRPM4(Transient potential receptor melastatin type member 4)の発現について検討し、その後半定量的 RT-PCR による mRNAレベルでの発現量解析を併用して論文として報告した (Sakuraba M et al., 2014)。今年度はTRPM4 KOマウスをハイデルベルグ大学より導入し聴性脳幹反応 (ABR) による聴力評価も開始した。得られた結果を解析し、哺乳類内耳におけるTRPM4の役割を解明することを今年度の目的とした。 方法:発生各段階の野生型 (WT) マウスを対象とし、側頭骨凍結切片を作製し、抗TRPM4ラビットIgG抗体 (Teruyama R et al., 2011) を用いて蛍光抗体法で免疫染色を行った。同じ発生段階で蝸牛上皮を基底板上のコルチ器を含む部分と血管条を含む側壁とに分けて解剖後mRNAを抽出し、TRPM4の発現を半定量的 RT-PCR法にて測定した。 TRPM4 KOマウスはハイデルベルグ大学より分与を受けて継代を開始し、WT、ヘテロ、KOマウス (各N=3) の聴覚評価を生後4週齢から36週齢までの各段階で聴性脳幹反応(ABR)によって施行した。 結果:TRPM4の特異的免疫反応が 4Wマウスにおいて内有毛細胞側底部、血管条辺縁細胞頂側部、および一部の蝸牛神経節細胞と神経軸索で観察された。半定量的RT-PCRでは、コルチ器・蝸牛外側壁の双方において聴覚の確立するP7から2Wにかけて著しい発現上昇が認められた。TRPM4 KOマウスABR測定結果については、主に生後17週齢以降においてKOマウスではWTに比べて閾値上昇が観察された。 考察:ABR測定結果よりTRPM4遺伝子のヒトにおける進行性感音難聴との関連性も示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ハイデルベルグ大学の研究者のご厚意によりTRPM4 KOマウスを導入し得たことにより、当初計画していた通りにTRPM4 KOマウスの聴覚を生理学的に解析する実験を開始することができた。しかし平成27年度初めには研究代表者(村田)が順天堂大学より慶応大学に移籍し、さらに年度末には慶応大学より大阪大学への移籍が必要であったため、その都度遺伝子改変マウスの移動など実験環境の整備を要した。主に以上のような理由により、研究の進捗は現時点ではやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、TRPM4 KOでは加齢による難聴の進行が野生型より促進されている可能性が考えられることも踏まえて、以下のように内耳形態、機能を解析することを予定している。 1. TRPM4 KOマウスとコントロールマウスの内耳形態を比較解析し、KOマウス内耳に形態異常がみられるかを解明する。パラフィン切片にて、有毛細胞、血管条、蝸牛神経節で細胞消失や形態異常の有無を観察する。必要に応じて凍結切片で血管条辺縁細胞、内有毛細胞、外有毛細胞などの細胞マーカーとなる抗原の免疫染色を併用することで、特異的な細胞の消失や変性(degeneration)の有無を検討する。特に8週齢と48週齢においてTRPM4 KOマウスとコントロールマウスの比較を行い、加齢よる内耳の形態的変化に差異が見られるかを検討する予定である。 2. 加齢による内耳機能・形態変化は音響外傷の積み重ねであるとも考えられている。従って今年度の結果よりTRPM4 KOマウスは強大音刺激による内耳障害程度が、コントロールマウスよりも大きい可能性が考えられる。また強大音による障害からの回復過程においてもTRPM4 KOマウスとコントロールマウスの間には差異が認められる可能性がある。今後は KOマウスとコントロールマウスで音響外傷モデルを作成してABRによって障害前、障害直後、回復過程での聴覚を評価し、差異が見られた場合は、形態的解析、および細胞レベルでの機能的解析を試みてその原因を解明したいと考えている。
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Causes of Carryover |
研究代表者が平成27年度始めに順天堂大学より慶応大学に異動した。このため遺伝子改変動物などの移動と新しい施設での実験系立ち上げに時間を要し、また平成28年度始めには大阪大学への異動が決まっていたため平成27年度末はさらにその準備が必要となり、研究計画遂行のための時間を十分に取れなかった。従って遂行に予定していた研究費を止むを得ず次年度に繰り越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
まず本研究の基礎となるTRPM4 KOマウスの飼育・系代にも使用予定である。さらに今後の研究推進予定を考慮して、TRPM4 KOマウスの聴覚機能解析に必要なABR測定設備の大阪大学動物実験施設内での設置に研究費を使用する予定である。さらにマウスの音響外傷モデル作成に必要な装置の設置と校正に使用したいとと考えている。
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Research Products
(2 results)