2017 Fiscal Year Research-status Report
極低濃度アトロピン点眼液による小児の近視予防治療の有効性と安全性の検証
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26462655
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Research Institution | Kawasaki Medical School |
Principal Investigator |
長谷部 聡 川崎医科大学, 医学部, 教授 (20263577)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 近視 / 小児 / 屈折異常 / 予防治療 / ランダム化比較対照試験 |
Outline of Annual Research Achievements |
強度近視は,眼軸長の過伸展により,網膜や脈絡膜の病理的変化を来たし,黄斑変性症,緑内障,網膜剥離など失明につながる合併症のリスクとなる。近視進行の著しい学童期にこれを抑制し,将来の疾患リスクを軽減することは,社会的にも大きな課題となっている。 アトロピン点眼液は網脈絡膜における眼軸長の視覚制御機能に係る神経伝達回路(ムスカリン受容体)を阻害することで網膜像のボケに対する眼軸長の過伸展を抑制し,近視進行を強く抑制することが基礎実験や臨床比較試験によって判明している。しかし,点眼液の副作用である散瞳効果による羞明や調節麻痺作用による近見障害などの問題から,これを学童の近視予防治療として使用されることは稀であった。ところが近年,ATOM studyによれば,点眼液の濃度を100倍に薄めた0.01%アトロピン点眼液が,副作用なしに平均60%程度近視進行を抑制し,点眼中止後もリバウンドがないことを報告した。 本研究では、国内の近視学童に対して0.01アトロピン点眼液の近視予防効果や眼軸長過伸展予防効果がどの程度あるかどうか,さらに副作用の問題について検討する。これまでの研究の経過としては,研究デザイン,研究に必要となる統計に関する情報収集,海外における研究の進展状況を考慮した場合の対象者判断基準について検討した。また成人ボランティアに対し,0.01%アトロピン点眼液点眼後の調節力や瞳孔径の変化に対する他覚的検査データーを得ている。検討結果によれば、調節や瞳孔径に関する影響は小さく,大きな調節力を持つ小児に対しては問題となる症状はないことを明らかにできた。 近視予防治療が最も必要となる中等度以上の近視症例を対象にし、ランダム化比較対照試験を計画、本年1月に川崎医科大学倫理委員会および川崎医科大学総合医療センター医療審査委員会の承認が得られたので、現在被検者募集中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究開始後、3年間の間に、度重なる政府の研究に関する倫理指針の変更がなされ、また指針遵守のためのコンプライアンスが求められることになった。新たな指針が出るたび、細かな研究計画の変更や追加書類を作成することが要求された。 最も大きな障害は、本研究では介入に伴う副作用のリスクが極めて小さいことから計画立案当初は全く予算として組み込まれなかった臨床研究参加者保険が義務付けられたことである。これにより研究予算が大幅に不足し、これを代償するため、研究目標や意義を担保しつつ、あるいは統計学的な検出力を維持しつつ、予算を削減するという極めて困難な問題に直面した。その後、症例度中等度以上の近視症例に限定するというアイデアにより、この問題は解決することができた。 また倫理審査委員会や医療審査委員会に提出すべき書類の量が、計画発案当時と比較し、飛躍的に増えたことも遅延の理由である。研究計画自体に大きな変更がないにもかかわらず、各委員会への説明や交渉に1年2か月を要した。また当初想定された研究に係わるエフォート量では、これら事務的作業を迅速に実施するには不十分であった。一方、臨床医としての診療に関するエフォートを削減することは極めて困難であり,その結果、研究の進捗遅延に至っている。 研究期間を1年間延長し、当初の研究を予定通り遂行し新知見を得る事を通じて、社会への有意義な還元ができるよう努力したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本年1月に川崎医科大学倫理委員会および川崎医科大学総合医療センター医療審査委員会から承認が得られたので、同年2月より近隣の診療所の協力を得て参加者募集を開始した。参加者は中等度以上の近視を持つ学童50名(6~12歳)を6か月をめどに募集する。 参加者は無作為に2群に分け、一群にはシンガポール国立眼研究所の好意により輸入した0.01%アトロピン点眼液(Myopine)を処方し,就寝時に両眼に一日1回点眼させる。他群は対照群として眼鏡処方のみで,無処置で経過観察を行う。参加者は3か月毎に12か月間通院させ、調節麻痺下の自動レフラクトメータ測定による屈折度(ジオプトリ)とレーザー光干渉計(Zeiss IOLmaster)による眼軸長(mm)の測定を行う。さらに問診、瞳孔径の測定、調節ラグの測定により副作用の調査を行う。介入開始後12か月を経た時点で、治療群と対照群を入れ替え、すなわち治療群では点眼を中止し、対照群で0.01%アトロピン点眼液による介入を開始する(cross over design)。各期間の近視進行速度と眼軸長の伸展速度を求め、治療効果た治療中止後のリバウンド効果の程度を明らかにする。 参加者獲得の状況により若干の前後はあるが、中間結果(parallel 2群)が判明するのは平成31年4月ごろ、最終結果(cross over 2群)が判明するのは平静32年4月ごろの予定である。
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Causes of Carryover |
理由:研究実施報告書に記したように、研究計画の変更や川崎医科大学倫理委員会および川崎医科大学医療審査委員会から承認を得るために時間を要し、参加者募集の開始が大幅に遅れたことが理由である。例えば,臨床研究参加者保険は研究立案時は予算として組み込まれなかったが、その後の倫理指針の変更やコンプライアンス遵守が求められた結果、保険なしには研究開始が認められなくなった。研究計画の一部更する事により、当初の研究目的や意義を損なうことなく、研究費用内での保険費用の捻出が可能になった。臨床研究参加者保険費用や介入治療として使用する0.01アトロピン点眼液の経費は本年度支払いが完了したので、現在本時間を実施中である。
使用計画:現在50名の参加者(中等度以上の近視学童)を募集中であり、半年以内に完了する予定である。その後2年間の経過観察の予定であるが、その間に必要となる、1)ホームページ作成など参加者確保ための宣伝・案内費用、2)追加の0.01アトロピン点眼液の費用、3)結果報告のために学会出張経費、4)統計解析に必要なコンピュータや統計ソフト費用などを研究遂行のための経費として使用することを計画している。
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