2016 Fiscal Year Research-status Report
咀嚼感覚と耐久性に優れた新規ウレタン系軟性裏装材の開発研究
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26462952
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
門川 明彦 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (00169533)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
蟹江 隆人 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (70152791) [Withdrawn]
村原 貞昭 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (80404490)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 軟性裏装材 / ウレタンオリゴマー / 弾性率 / ショアA硬さ |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,超高齢社会に突入した我が国では総人口は減少傾向にあるが,今後20年近く高齢者の人口は増加すると言われており,有床義歯の需要も漸増するものと推測されている.しかし多くの義歯装着患者が,咀嚼時の顎堤部の疼痛や義歯の不適合に悩まされているのが実情である.そのため緩衝効果を期待して,各種の軟性裏装材が応用される場合も多い.しかし現在の市販軟性裏装材は,口腔内での耐久性に乏しく,機能的な面でも十分とは言えない.そこで本研究において,幅広い粘弾性的性質を示すウレタンオリゴマー材料に着目し新規軟性裏装材の研究開発に着手した.口腔内の温度変化は,およそ4℃~60℃と言われているが,軟性裏装材に対して低温と高温どちらの温度環境が材料の劣化等の耐久性に影響を及ぼすかは不明な点が多い.そこで本研究では,各種試作ウレタン系軟性裏装材を低温の4℃および高温の60℃水中に1年間の長期間浸漬して,ショアA硬さと圧縮弾性率の経時的変化を測定した.また現在市販されているアクリル系およびシリコーン系軟性裏装材に関しても同様の測定を行い,比較検討した.アクリル系軟性裏装材は,どちらの温度環境でも可塑剤の溶出に伴って材料が硬化変形して,途中から計測不能となった.シリコーン系軟性裏装材は,両温度環境下で弾性率は増加したが,特に4℃に比較して60℃の温度環境では,重合反応の進行や材料の劣化等で,急速に材料の硬化が進み,弾性率が2倍以上に増加する材料も見られた.軟性裏装材は,口腔内で長期間に亘って柔軟性が保持されることが,疼痛緩和に有効なだけでなく義歯の装着感の向上にも有効であると言われている.一方,各種試作ウレタン系軟性裏装材は,両温度環境下で1年後でも弾性率は僅かに減少した.これは材料の柔軟性が長期間維持されることを示しており,従来の市販品には見られない画期的な物性を有していることが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで本研究課題において,ほぼ当初の研究計画に沿って研究を遂行してきた.現在,臨床で多用されているシリコーン系軟性裏装材は,当初は柔軟性が保たれているが,きびしい口腔内環境に曝されることで,劣化が進み急速に硬化していく.このため軟性裏装材を応用した義歯装着患者の使用感覚も徐々に悪化していく.この欠点を克服する新規材料の開発が強く求められてきた.本研究における多官能性ウレタンアクリレートオリゴマーを基材とする光重合型試作軟性裏装材は,当初の予想通り弾性率がほとんど変化せずに,長期間安定した物性を示した.これにより,従来の軟性裏装材と比較して,長期間の口腔内使用に耐えられる機能的に優れた軟性裏装材の臨床応用の可能性が示唆された.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年4月の歯科診療報酬改定で,口腔疾患の重症化予防及び口腔機能低下への対応の一環として,使用中の下顎総義歯に軟質材料を用いての有床義歯内面適合治療が保険収載された.関連学会でも,軟性裏装材を応用した治療に関する講演やセミナー等が多数行われるようになり,歯科医師や歯科材料メーカーの軟性裏装材に対する注目度は,飛躍的に高まっていると言っても過言ではない.市販されている軟性裏装材の中では,耐久性に比較的優れているとされている一部のシリコーン系軟性裏装材料が保険診療で使用可能となっている.しかし,上述のようにシリコーン系材料も経時的に弾性率が増加し,材料表面は硬化していく.このため軟性裏装材に要求される緩衝効果は急速に失われていくのが実状である.研究中の試作軟性裏装材は,長期間弾性率がほとんど変化しないで,裏装材の初期の柔軟性が長期間保たれる物性を有しており,実際に臨床応用されれば,多くの義歯使用患者に多大な福音をもたらすと期待される.今後,最終的な臨床応用に向けて,試作軟性裏装材とアクリル義歯床との接着耐久性の評価,長期間義歯洗浄剤中に浸漬した場合の物性の経時的変化等,試作ウレタン系軟性裏装材の耐久性に関する検討を行っていく予定である.
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Causes of Carryover |
平成27年度までの研究分担者の退職に伴い,平成28年度から新たに研究分担者を追加した.次年度は,研究代表者だけでなく,研究分担者の学会出張旅費等の経費が予想されるため,次年度にある程度の金額を繰り越した.またウレタンオリゴマー材料等の購入に必要な経費を確保した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究代表者及び研究分担者の学会出張旅費等の経費の他,各種ウレタンアクリレートオリゴマー原料の購入費用に充てる予定である.
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