Outline of Annual Research Achievements |
サルコペニアは,全身性の筋肉量および筋力低下を特徴とする症候群であり,全身のみならず,口腔周囲筋にも影響を及ぼす.口腔のサルコペニアの進行は,全身のサルコペニアに拍車をかける .そこで,研究1では要介護高齢者における口腔のサルコペニア予防を目的とした評価法の構築のため,その有病率を調査し,全身および口腔咽頭機能検査の項目について比較検討した.さらに,研究2では,口腔機能の評価法について検討した. 研究1の対象は,施設に入居する要介護高齢者154名のうち認知機能の低下により測定困難な者を除外した73名(男性23名,女性50名)である.サルコペニアの診断は,アジア診断基準の筋肉量のカットオフ値(男性7.0kg/m2,女性5.7kg/m2) より2群に分けた.サルコペニア群は55名(75.3%),ノンサルコペニア群は18名(24.7%)であった.単変量解析の結果,年齢,日常生活動作,BMIおよび嚥下機能において有意な差(p<0.05)が認められ, サルコペニアが認められる高齢者において咽頭機能の低下が示唆された.一方で,舌圧において有意な関連は認められず,測定可能な対象者は18.2%であった.よって,より簡便な口腔機能の評価法についての検討も必要であると考えた.そこで研究2として, 咀嚼時の初動に認められる口腔移送の評価として開発した口腔移送試験を用いて高齢者における口腔移送能について検討した.本試験は,被験者が試験食を口腔に捕らえたのちに臼歯部に移送するまでに行った開閉口 回数を計測した.対象は,認知症と診断された要介護高齢者104名とした.調査項目は,年齢,性別, 日常生活動作, 認知症の重症度,口腔内状況,口腔移送試験,食形態とし,口腔移送試験結果と各評価項目との関連について検討した.多変量解析の結果,口腔移送能は年齢,性別,認知症の重症度(p<0.05)と有意な関連を示した.口腔移送能は認知症の重症度に影響を受けることが示された.また,口腔移送試験は,これまでの咀嚼機能評価と比較すると指示理解の低下した対象者においても有用な検査であった.
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