2014 Fiscal Year Research-status Report
ケアラーに視点をあてた包括的支援システムの構築―先駆的実践事例の分析から―
Project/Area Number |
26502014
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
堀越 栄子 日本女子大学, 家政学部, 教授 (70060720)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ケアラー支援 / 介護者支援 / ケアラーニーズ / 介護者ニーズ / アウトリーチ支援 / 地域包括ケアシステム / 包括的支援システム |
Outline of Annual Research Achievements |
わが国では、在宅の要介護者への支援は進んできたが、在宅ケアラー(家族など無償の介護者)への社会的理解は薄く、過剰な心身の負担や経済的負担を抱え、社会から孤立している人も多い。その中で北海道栗山町と岩手県花巻市は自治体独自でケアラーへのアウトリーチ型支援を行っている。 平成26年度は、両自治体の調査を行った。花巻市調査では、在宅介護者等訪問相談記録(平成23年度708件、24年度751件、25年度631件)の分析、訪問相談員のインタビュー、アウトリーチ型ケアラー支援の評価を巡る研究者・自治体担当者・訪問相談員による意見交換を行った。栗山町調査では、訪問記録の収集、在宅サポーターとケアラー支援コーディネーターへのインタビューを行った。 その結果、第1に支援の成果として、花巻市で3年間継続して訪問している19事例からは、「ケアラーの心身の健康度の向上」「家族関係の調整」「経済的な困窮状態への対応」「サービス利用」「ケアラーの就労など社会参加」「家族全体への対応による被介護者のエンパワメント」等が明らかとなり、成果ごとの介護者・被介護者の特徴も見えてきた。さらにアウトカムの可視化が重要である。 第2に、アウトリーチ型支援といっても、それぞれの実施システムには特徴があることがわかった。花巻市では、介護保険認定者のうちサービス未利用者の名簿が社会福祉協議会(訪問事業受託)に渡され、それを基に訪問するという仕組みが出来上がっており、認定を受けることで訪問リストに記載される。一方、栗山町は、社会福祉協議会によるケアラー手帳配布世帯のうち、「手上げ方式」で訪問先が決定する仕組みであるため、自ら意思表示をするケアラーが訪問対象となる。アウトリーチ型支援は、介護者・被介護者の生活の場にでかけ、寄り添い、日常の大小様々な生活課題に対応できるが、早期発見・早期支援に向けた実施プロセスに課題もある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、花巻市調査では平成23年度708件(サービス未利用者リストは830件。そのうち死亡や、長期入院者などを対象から外した訪問件数)、24年度751件(1003件)、25年度631件(833件)の在宅介護者等訪問相談記録の分析、訪問相談員のインタビュー、研究者・自治体担当者・訪問相談員による意見交換(アウトリーチ型ケアラー支援の成果)、栗山町調査では、訪問記録の収集、在宅サポーターとケアラー支援コーディネーターへのインタビューを行った。その中で、研究の概要にも述べたように、アウトリーチ型ケアラー支援がケアラーに良い影響をもたらすことと同時に、影響評価の難しさや、訪問リストの作成から訪問、検討会、訪問打ち切りにいたる実施プロセスに課題があることも明らかとなった。 しかしながら、花巻調査は平成22年度の訪問相談記録分析も実施する予定であったが、訪問の実施主体が平成22年度の地域包括支援センターから23年度以降は社会福祉協議会へと変わり、記録の様式も異なり、22年度についての分析は行わないこととした。また、3年間の記録が膨大であり、栗山町の訪問記録分析は実施できなかった。その一方、訪問相談記録の分析のため、アウトリーチによるケアラー支援効果の考察を深めることを重要視し、平成27年度に行う予定であった訪問相談員、在宅サポーターへのインタビューを26年度に実施した。相談員本人との面接では、記録に表現されていない思いや行動を聞き取ることができた。また、支援効果を巡って、「介護保険サービスにつなげることが目的ではない」「介護者の気持ちを尊重しより良い介護環境を整えたい」という発言は、ケアラー自身の人権と生活のバランスという、ケアラー支援の本質に関わる問題提起であった。以上のように、研究予定の変更はあったが、おおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度、28年度は引き続き花巻市および栗山町の在宅介護者への訪問相談記録を分析し、相談員へのインタビュー、自治体や社会福祉協議会へのインタビューと意見交換を行い、①ケアラーニーズの把握、②現在のアウトリーチ型ケアラー支援の成果と課題の考察、③困難(心身の健康を害したり、経済的に疲弊したり、社会的に孤立するなど)を予防するため、また、困難を解決するための、ケアラーの早期発見・早期支援につながるアウトリーチ型ケアラー支援の望ましいプロセス、④以上を保障する包括的支援システムについて研究を進める。 その際、平成26年度の花巻市訪問相談記録の分析の中で、いくつか気づいたことがあるので、その視点も組み込んでいきたい。①単年度で訪問が終了しているケアラー世帯は、平成23年度は708件中634件、24年度は751件中728件、25年度は631件中606件である。単年度で訪問を終了している理由(記録からの推測も含めて)は、第1位が「不在」、第2位が「介護保険サービス利用予定・開始」、第3位が「入院中」、第4位「困りごとなし」と続いている。しかしながら、例えば、家族の入院中も、サービスを利用しても、さまざまな問題が起こり、気持ちを受け止める身近な相談相手は必要である。この点については、訪問対象者が介護保険サービス利用者が多い栗山町の訪問記録分析との突合せから示唆が得られるかと思う。②訪問相談記録用紙をみると、家族がより良い介護役割が果たせることにつながるような記録内容が多く、ケアラーが自分の暮らしを楽しんだり、社会参加が出来ているかということはあまり書かれていない。もともと、そのような内容を記入する欄が設けられていない。この点については、介護者支援の本質、目的、方法に関わるので、訪問相談員、在宅サポーター、自治体関係者、社会福祉協議会等と意見交換が必要である。
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Causes of Carryover |
宿泊費の実費精算で節約したためや、体調を悪くした連携研究者が年度末の出張に参加できなくなったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は引き続き花巻市および栗山町の在宅介護者への訪問相談記録を入手し分析し、相談員へのインタビュー、自治体や社会福祉協議会へのインタビューと意見交換を行い、ケアラーに視点をあてた包括的支援システムについて研究を進める。 そのため、平成27年度同様、研究費の主な使途(繰り越し分も含める)は、旅費及び訪問記録の入力費等となる予定である。
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Research Products
(6 results)