2015 Fiscal Year Research-status Report
博物館における「負の記憶」の展示表象とその成立プロセスに関する実証的研究
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26503011
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
金子 淳 桜美林大学, 人文学系, 准教授 (00452178)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 博物館 / 展示 / 表象 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、戦争や公害、災害といったいわゆる「負の記憶」が、博物館展示という場においてどのように表象され、その展示空間にはどのような政治的な力学が作用しているのかを実証的に明らかにすることを目指すものであるが、2年目となる2015年度においては、特に現地調査に力を入れた。成田空港反対闘争を展示する「成田空港 空と大地の歴史館」や、四日市公害の記憶を伝える「四日市公害と環境未来館」、空襲と復興をテーマとした「仙台市戦災復興記念館」等の施設において、「負の記憶」をめぐる展示表象に関する現地調査を行ったほか、東日本大震災の被災地において災害の記憶がどのように展示されているかを確認するため、岩手県・宮城県の被災地を訪れて調査した。岩手県大船渡市における津波被害のようすを伝えるために民間の有志によって設立された「大船渡津波伝承館」では、設立に際して中心的な役割を担った館長に聞き取り調査を行った。また、陸前高田市においては、震災遺構として保存されることになった「陸前高田ユースホステル」「道の駅高田松原TAPIC45」「下宿定住促進住宅等」等を調査した。宮城県気仙沼市では、「唐桑半島津波体験館」「リアス・アーク美術館」において震災に関わる展示の調査を行うとともに、関係者に聞き取り調査を行った。また、現地調査に加えて文献収集も継続して実施した。各博物館において発行されているガイドブック・展示図録・パンフレット・研究紀要など、各館の活動状況を把握する資料を入手したほか、先行研究に関する文献など多岐にわたる資料収集を行いつつ、研究課題全般に関する把握に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、東日本大震災の被災地における博物館活動や震災遺構の保存運動に焦点を当てて調査を行った。現地での聞き取り調査も進め、展示調査だけでは把握することが困難な貴重な証言等も得ることができた。また並行して精力的に資料収集を進め、ガイドブック・展示図録・パンフレット・研究紀要などの資料収集が進んだ。とりわけ被災地における資料収集の成果は、現地でなければなかなか入手できない資料も多く、今後の研究において十分に活かし得る重要なデータになると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は調査対象を海外に拡大し、アジア太平洋戦争期に日本の占領地となったシンガポールにおいて、日本の占領や戦争の記憶がどのように表象されているかを調査する予定である。とりわけ、一時期「昭南博物館」と改名した現シンガポール国立博物館など、日本軍に接収された博物館の展示や戦跡において、占領下の日本がどのように表象されているかということを中心に現地調査を行う予定である。また2016年度は、3年次にわたる本研究課題の最終年度にあたるため、これまでの調査の成果をまとめる作業を行う。
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Causes of Carryover |
概ね計画通りの執行ができたが、残額分は次年度に海外出張を予定しており、その分をあらかじめ見込んで執行を控えたからである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度分と合わせて海外出張において執行する予定である。
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