2014 Fiscal Year Research-status Report
現代ロシアの都市住宅動向とその特殊性の研究:家計の住宅保有・住替動向を中心に
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26504005
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
道上 真有 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (30527693)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 世代間格差 / 住宅 / ロシア / 特殊性 / ソ連の遺産 / 住宅政策 / 住宅市場 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はまだ国内外で研究蓄積が少ないロシアの都市住宅市場の特殊性を明らかにすることを目的としている。平成26年度は世代間の住宅取得格差、住宅保有と住替の実態をロシア家計調査の個票データ分析から明らかにし、さらに文献サーベイと市場動向分析をおこなった。 明らかにした点は以下の2点であり、それぞれ英語論文と図書所収論文として発表し、ロシアでの国際シンポジウム、国内学会研究集会において研究成果を発表した。また、ロシアでの現地調査も実施した。 ①ロシアの若年世帯層では住宅の第1次取得の資金制約が他の世代層より深刻であること、他方で、若年世帯の住宅の設備状況は他の世代層よりも設備率が高く、賃貸・持ち家にかかわらず住環境設備そのものはそれほど劣悪ではないことが本年度の研究で明らかになった。一方、中高年層の住宅は一次取得の住宅がソ連時代の国営住宅を無償で引き継いだことから、住み替え住宅資金制約があるものの、若年層よりも深刻ではないことが本分析から明らかとなった。中高年世帯層が他の世代層より深刻に抱える問題として明らかになったことは、居住している住宅の修繕費用の資金制約であった。取得した住宅の維持補修費用を確保することが難しいことと、ソ連時代の引き継いだ住居の急速な劣化が、この年齢層の居住環境を悪化させている。 ②さらに家計調査とは別にロシアの文献サーベイと市場分析を行った。ロシアの都市部では現在、ウクライナ問題に端を発する対ロシアへの経済制裁やルーブル安による経済低迷によって、ロシア都市部の駆け込み需要が発生し、またインフレによる建設コストの上昇等によって、一時的な住宅価格上昇が高級住宅を中心に発生している。さらに、インフレ抑制とルーブル安対策としてロシア政府が実施した金利引き上げが、更なるローン金利の引き上げ前の住宅ローンの駆け込み借入が増加していることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ロシア長期家計モニタリング調査の個票データの入手手続きを完了しデータを獲得し、その時系列分析に着手した。その成果の一部を論文やロシアでの国際シンポジウム、学会研究集会を通じて発表した。また文献・資料収集を現地調査も含めて実施し、文献サーベイ、先行研究サーベイも継続している。さらに、パネルデータの構築にも着手し、平成27年度にはパネルデータの完成とその分析の第1段階の発表を目指す。データ分析を捕捉するロシア現地調査として、ロシア極東地域(アムール州、ユダヤ自治州、ハバロフスク地方、沿海地方)へのインタビュー調査、資料収集調査も実施した。その成果の一部を論文や研究発表にも取り入れている。引き続き次年度の研究に活用する予定である。さらに、日本の家計調査を使用した住宅研究の先行研究サーベイも同時並行で着手し、次年度に向けて世代間の居住格差を正規・非正規雇用の視点から分析することも開始した。その結果、英語論文(招待論文)と図書所収論文を発表し、国内外の研究発表を実施することができた。 また地方の住宅事情の特殊実態として、企業城下町の企業福利厚生と地方住宅市場との発展の関連について現地調査結果を踏まえた研究も発展させ、研究発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き世代間の住宅取得格差、住宅保有と住み替え動向の分析、住居の市場相場価値の回答に基づいた異時点間比較分析と、パネルデータの構築完成とその分析結果の第1段階発表を目指し、さらに研究の進展をはかる。世代間居住格差について、正規雇用と非正規雇用の軸で新たに分析を行うことで労働市場との関連性、ロシアの住宅市場と労働市場の特殊性を明らかにする。本年度はすでに3つの国内外で開催される国際学会、シンポジウムで研究成果を発表する予定で、すでに研究発表の採択通知を得ている。①6月末第1回比較経済世界大会(イタリア・ローマ)、②8月初旬第9回国際中欧・東欧研究世界大会(日本・幕張)、③10月初旬ロシア科学アカデミー極東支部主催国際シンポジウム「ペレストロイカ30周年:ロシアの今(仮)」(ロシア・ウラジオストク)の3大会である。 昨年度から国際情勢の変化もあり、ロシア国内での外国人研究者による現地調査の許可を得ることが難しくなりつつある。この課題への対処として現地研究者との共同研究調査の形で、調査計画を組み直し、小規模な地域調査を行うことで対応することを企画しておりすでに現地研究者と詳細な打ち合わせを行っているところである。また、別途参画している研究グループで2009年に実施した企業アンケート調査結果を使用した分析、およびその継続調査を極東地域で実施する共同研究にも参画していることから、企業アンケート調査結果を通じた企業福利厚生と企業城下町の側面から地方の居住実態分析で現地調査困難に対応する。また、政策文書を丹念に追ったロシアの住宅政策史の研究を深めることで対応することも計画している。 本年度は、中古住宅・賃貸状況(設備普及率、修理負担率、家賃)と住宅政策(政府・対象住民)実態の点を、収集データの多面的な分析と、資料・文献考量および内外への研究成果発表の形で、計画に沿って進める。
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