2015 Fiscal Year Research-status Report
現代ロシアの都市住宅動向とその特殊性の研究:家計の住宅保有・住替動向を中心に
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26504005
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
道上 真有 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (30527693)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 住宅 / ロシア / 住宅ローン / 世代間格差 / 不良債権 / ルーブル下落 / 住宅価格 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は国際学会、国際研究集会等での発表を積極的に行った。研究を進展させる有益なコメントを受け、研究ネットワークをさらに拡大させることができた。発表した研究内容は、(1)ロシアの世代間住宅格差とその解決策について、(2)若年労働者の正規雇用と非正規雇用との住宅格差と世代間同居が、景況悪化さらに中長期的な視野で居住環境の悪化につながりかねないこと、(3)企業内福祉としての社宅住居の実態:極東・シベリアの事例について、である。また、27年度にロシアでおきた急激なルーブルと原油価格の下落によって、ロシア景気が悪化し、ロシアの住宅市場、住宅ローンにも大きな変化が生じている。住宅価格はセグメントによって異なる動きを見せ、平均価格が下落するものの高価格帯の住宅や一部中古住宅では逆に値上がりを見せた。他方で、住宅ローンの不良債権率がルーブル建てでは漸増、ドル建ての不良債権率は急上昇した。この結果、2016年1月末から2月にかけて住宅ローン返済見直しを求めて銀行に顧客が押し寄せる事態にまで発展している。ロシア政府がルーブル下落とインフレ抑制の対策として実施した基準金利引き上げ後、ルーブル価値とインフレ率の変動率が一定の落ち着きを見せたことで政府は、ローン金利抑制を目的とする基準金利の引き下げに政策転換した。さらに政府から金融機関へ緊急支援融資を実施するなど、ロシア政府は住宅ローン問題に対応策を出しているが、引き続き予断を許さない状況にある。こうした新しい変化についても分析し、成果の一部を図書所収論文、雑誌論文として発表した。また、住宅公共設備の更新問題についても研究をすすめ、ロシアの住宅公共料金値上げとエコ住宅導入による家計の住宅公共サービス費用の抑制関係について、政策をフォローし、研究成果の一部を論文に結実させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国際学会等への研究発表は当初計画の2回より前倒しで積極的に行い、合計6回の発表を実施した。また研究の進展に新たに追加する内容として、本年度は特に当初想定されていなかった急激な景気変動によるロシア住宅市場の影響に焦点を当てて分析、その成果の一部を論文に発表した。また当初の計画通り、住宅ローン分析し、中古住宅流通、家計の住宅保有動機についても最新の景況変化を加味して研究し、成果の一部を発表した。さらに前年度に引き続き、世代間、若年世帯の住宅保有に焦点を当てて、国際学会で発表、研究成果の一部を論文に発表するとともに、獲得したコメントをうけさらに研究内容を進展させているところである。また研究課題の一つである、住宅公共設備の付帯状況と家計負担、政府の公共サービス改革、料金改革についてのサーベイと、現状について分析にも着手し、成果の一部も論文に発表した。他方で、国際学会等での研究発表回数が計画より多く実施したことも重なり、現地調査を実施することができなかった。現地調査の実施については引き続き研究協力者と打ち合わせを重ねた上で、次年度以降に実施を予定する。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きRLMSを使った世帯の住宅環境、住宅保有動機などの観点で分析を継続する。今年度の研究計画どおり、住宅公共設備(電気、上下水道、暖房、ガス、給湯など)の普及率と、その家計負担率、住居修理費用負担率を計測し、その時系列変化と、中古住宅ストックの住環境評価基準を提案し、その基準に基づいて中古住宅ストック状況を計測する。またRLMSとは別のロシア統計局が発表している家計調査データ(OBDKh:2003―2012年)も利用して分析する。特にOBDKhは住宅状況、住宅資金源泉についてRLMSより詳しくデータが収集されている。このデータも入手済みで、RLMSではできない分析を補完する。さらに依然として続いているロシア経済の不況下における不動産市況と住宅ローン融資状況についての分析も進展させる。最後に、平成29年3月から約1年間の予定で、ロシアでの在外研究計画を追加する予定である。本研究課題に加えて、発展的な追加課題(土地登記制度の実態と歴史、労働移民と住宅)の研究をロシアで約1年間行う国際共同研究加速基金に採択されたことを受けての追加研究で、本研究課題(基課題)と相互補完的に研究を実施する。研究協力者と現地調査、基礎的調査、研究打ち合わせの実施、国内外の学会等への参加、先行研究サーベイの蓄積にも努める予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は6回の国際学会等での積極的な研究成果発表を行い、協力者との打ち合わせも行ったが、現地調査を行うことができなかった。そのため計上していた謝金や旅費の予算の一部を次年度に繰り越すことになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現地調査、打ち合わせ等にかかる旅費、謝金、研究課題遂行に必要な物品費、謝金等に支出を予定している。
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