2015 Fiscal Year Research-status Report
新規なイオン化法を利用したイメージング質量分析の開発
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26505011
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
荒川 隆一 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (00127177)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川崎 英也 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (50322285)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 白金スパッタ蒸着 / レーザー脱離イオン化 / イメージング質量分析 / タッピング走査プローブエレクトロスプレー / ハイブリッド法 / グリセロ脂質 / ラット脳細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,試料表面上に存在する低分子量の有機化合物の分布を簡便に計測するためのイメージング質量分析(IMS)法を開発することである.申請者らが新しく考案した2種類のイオン化法である1) 白金スパッタ蒸着法を利用したレーザー脱離イオン化(Pt-SALDI)と2) タッピング型走査プローブエレクトロスプレーイオン化(t-SPESI)を利用して新規なIMS法の実現をはかる. 今回,特にPt-SALDIによるIMS法の実現に注目した.イメージング質量分析にはマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法が一般に用いられる.しかし,脳細胞のMALDI-IMSにおいてはホスファチジルコリン(PC)が大過剰に検出されることで起こるイオンサプレッション(イオン化抑制)効果により,ジアシルグリセロール(DAG)やトリアシルグリセロール(TAG)などのグリセロ脂質を検出することは困難である.そこで,脳細胞表面のグリセロ脂質を検出するために,Pt-SALDIを脂質分析に適用した.Pt-SALDIの特徴は,MALDIとは異なり溶媒フリーかつマトリックスフリーなイオン化法である.MALDIはPCを検出できるが,グリセロ脂質を検出することはできなかった.一方,Pt-SALDIはDAGを検出できるがPCを検出することができなかった.このようにPt-SALDIは脂質の分析において高い選択性を有するイオン化法であることが示された.我々はこれらの脂質を同時に検出するために,MALDIとPt-SALDIのハイブリッド技術を開発した.このハイブリッド法を用いることで,ラット脳細胞表面のPCやPE,DAGなどを同時検出することに成功した.さらに検出されたこれらの化合物のイオン収量は,それぞれMALDI-やPt-SALDI-IMS単独のときよりも高かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究計画は,Ptスパッタ蒸着を利用した表面支援レーザー脱離イオン化(Pt-SALD)の研究を主に推進して,生体試料であるたとえばラット脳細胞切片のイメージング質量分析(IMS)へ適用することであった.MALDI-IMSと比較して,Pt-SALDIは乾式法で直接にPtナノ粒子を試料に均一塗布できる簡便な方法である.特にラット脳細胞表面中の脂質の脱離・イオン化について,Pt-SALDIとMALDI法を用いて比較評価した.その結果,MALDIで検出できないが,Pt-SALDIでのみ特異的にグリセロ脂質を検出することができた.さらに,有機マトリックス(MALDI)と無機マトリックス(Pt-SALDI)の両方を用いたハイブリッド技術(matrix-enhanced Pt-SALDI)によるラット脳の脂質のイメージング質量分析を評価し,イオン検出感度の向上を実現することができた.Pt-SALDIは試料調製が簡便であり高い再現性が期待されるため,イメージング質量分析のイオン化法として期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究計画は,申請者らが新しく考案した1) 白金スパッタ蒸着法を利用したレーザー脱離イオン化(Pt-SALDI)と2) タッピング型走査プローブエレクトロスプレーイオン化(t-SPESI)を利用した新規な2種類のイメージング質量分析(IMS)法の実用化を目指した具体的な技術開発を行う. 1) 浸透性農薬を投与した植物の葉を試料として,植物内における農薬の分散の経時変化をPt-SALDI- IMSによって追跡する.植物の葉は非導電性で,薄片化するには薄すぎるのでMALDIによるイメージング分析には不向きである.そのために,従来はラジオアイソトープ化された農薬を用いて解析される.そこで,Pt-SALDIを用いることで葉表面に分布する農薬の直接質量イメージングが可能であることが検証する. 2) 現在,t-SPESIにおいて先端径30 umのタッピングキャピラリーを使用しているので,その空間分解能は約50 umである.そこで,ESIによる世界初のイメージング分解能10 um以下に挑戦するために,先端径500 nmのナノキャピラリー(ナノピペットと呼ぶ)を用いたt-SPESI-IMSを実現する.ナノピペットは,マイクロプラーを用いてガラス管を加熱しながら延伸することで作製する.ナノピペットのイオン化に影響を及ぼすパラメータの最適化,インクジェット法によるインクのモデルマイクロパターンを用いてイメージング性能を評価する.
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Research Products
(5 results)