2014 Fiscal Year Research-status Report
高真空下における生物試料の生命維持機能の解明と宇宙環境への応用
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26506008
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
太田 勲 浜松医科大学, 実験実習機器センター, 技術専門職員 (20464133)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
針山 孝彦 浜松医科大学, 医学部, 教授 (30165039)
高久 康春 浜松医科大学, 医学部, 特任助教 (60378700)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 走査電子顕微鏡 / NanoSuit / 高真空 / 生命維持 / バリアー性能 |
Outline of Annual Research Achievements |
新規合成溶液を利用した高真空における生命維持法の完成 申請者らは、高真空下で生命維持するため、ショウジョウバエなどの幼虫が持つ粘性物質(Extracellular substances;ECS)を模倣した両親媒性の界面活性物質の化合物polyoxyethylene (20) sorbitan monolaurate (Tween20)を用いてNanoSuitを形成保護し、五界説で示される原核生物、原生生物、菌類、植物、動物の幾つかを高真空電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)でほとんど生きたまま観察することに成功できている。 しかし、切り出した組織では組織・細胞毎に保護溶液成分を検討する必要が生じていた。つまり、麻酔摘出したマウス腹膜を未固定ままTween20で処理し、FE-SEMにて観察すると直ちに電子線チャージが発生し観察が困難となるためTween20に代わる溶液の選定を試みた。 申請者らは、水を効率よく捕捉する分子と糖やアミノ酸とブレンドした溶液を開発し、Surface shield enhancer(SSE)と名付けた。切り出した組織を使用してTween20とSSEのFE-SEM観察前後の重量変化を比較したところ、Tween20では約30%重量が減ったのに対し、SSEでは10%程度で高いバリアー性能を持つことが示唆された。従って、優れた保水能を持つSSEによってNanoSuit形成保護した試料では、電子線チャージすることもなく鮮明なSEM像を得ることが可能となった。さらに、個体から単離したばかりの組織および細胞を生きたまま観察することにも成功し、培養細胞などでは観察後の試料を再び培養することにも成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らは、生物が高真空下で生命維持するため、主に両親媒性の界面活性物質Tween20を用いてNanoSuitを形成保護し、五界説で示される原核生物、原生生物、菌類、植物、動物の幾つかを高真空電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)でほとんど生きたまま観察できているが、切り出した組織・細胞毎に見合う保護溶液成分が検討課題であった。 そこで、申請者らは、新規合成溶液(水を効率よく捕捉する分子と糖やアミノ酸をブレンドした溶液:Surface shield enhancer(SSE))を開発した。SSEは、優れた保水能を持つことがわかり、課題とされていた切り出した組織や生きたままの培養細胞などのFE-SEM観察がチャージすることなく可能となった。 初年度の目的としていた新規合成溶液の開発はおおよそ達成された。
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Strategy for Future Research Activity |
本新技術を発展させ、細胞内で起こる極微細な実運動を可視化し、細胞や組織レベルにおける詳細な生命応答へと解析範囲を広げていく。 [細胞や組織レベルにおける生命応答の解析]これまで、生体とウイルスとの実動観察は、endocytosis等の関連タンパク質を標識し、これらの変化を光学顕微鏡で追跡する方法、あるいは化学固定・脱水 乾燥処理を行った”死んだ個体”の静止電顕像を連続的に並べ運動を推測する方法に留まっていた。新規合成溶液によるnano-suit法を用いれば高真空電界放射型走査電子顕微鏡内においてウイルスサイズの微小粒子の動的観察が可能であると考える。この方法をさらに改良することにより、高真空下における、細胞レベルでの長期観察・解析を可能にし、これまでと全く異なる宇宙生命科学への応用へと展開できると期待する。 [極限環境微生物 “extremophile”との生存メカニズムに関する連関の解明]本研究から得られた宇宙空間での生命維持に関する知見を、地球上の極限環境微生物 “extremophile”と比較検討することにより、宇宙環境と地上極限環境における生命維持機構の連関を解明し、生命の起源が地球外に由来する可能性を探る。 [宇宙環境への応用]あらゆる生物・組織を生きたまま高真空で維持する新技術の完成を基に、国際宇宙ステーション「きぼう」内・外にて、nano-suitで保護された生物個体・組織、細胞の生存実験を行う。また、平成27年度「きぼう」利用ファジビリティスタディ(FS)テーマ募集の申請を行う。
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Causes of Carryover |
初年度の研究の進展に伴い、当初予想し得なかった新たな知見が得られたことから、その知見を使用し十分な研究成果を得るために当初の研究計画を変更する必要が生じた。 具体的には、両親媒性界面活性剤Tween20に代わる水分子を捕捉する物質と糖やアミノ酸をブレンドした新規合成溶液SSE(Surface Shield Enhancer)を開発し、その調整に予想外の日数を要したため年度内に完了することが困難となった。よって、初年度購入予定していたオスミウムコーターの設置は次年度に持ち越す形となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新規合成溶液SSE(Surface Shield Enhancer)を用いたNanoSuit法で処理した方法は、保水能が向上し、より生体に近い状態で微細構造が保持されていると考えられる。SSEを用いたNanoSuit法および従来の走査電子顕微鏡(SEM)試料作製法によって作製された生物試料を高真空電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)で比較観察する。従来のSEM試料作製法は、脱水、乾燥、そして購入予定しているオスミウムコーターによるオスミウムプラズマ蒸着を施す必要がある。
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[Presentation] Dressing living organisms in a thin polymer membrane, the NanoSuit, for high-vacuum FE-SEM observation.2014
Author(s)
Hariyama T, Ohta I, Hirakawa S, Kawasaki H, Suzuki H, Ishii D, Muranaka Y, Shimomura M, Takaku Y
Organizer
日本顕微鏡学会
Place of Presentation
幕張メッセ国際会議場
Year and Date
2014-05-13
Invited