2015 Fiscal Year Research-status Report
高真空下における生物試料の生命維持機能の解明と宇宙環境への応用
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26506008
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Research Institution | Hamamatsu University School of Medicine |
Principal Investigator |
太田 勲 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 技術専門員 (20464133)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
針山 孝彦 浜松医科大学, 医学部, 教授 (30165039)
高久 康春 浜松医科大学, 医学部, 助教 (60378700)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 走査電子顕微鏡 / NanoSuit / 高真空 / 生命維持 / バリアー機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
20世紀初頭、生命起源に関する新説として「地球上の最初の生命は宇宙からやってきた」という『パンスペルミア仮説』が提唱された。しかし、現存する生命体は、構成成分の70から80%が水であるため、宇宙空間の高真空環境に耐え得るとは考えにくく、生命の起源を考える上で大きな障壁となっていた。これまで宇宙生命科学分野では、宇宙ステーションを利用した様々な船内及び船外実験が行われてきた。各種生物の真空耐性も調べられ、例えば、乾燥状態にあるネムリユスリカの幼虫は、2年半の長期に渡って船外に放置しても蘇生可能であることが明らかにされた。しかしこれは、外環境の湿度がゆっくりと下がっていく場合に、体内にトレハロースが大量に蓄積される「クリプトビオシス」がもたらす乾燥耐性を示したもので、実際、生きたまま高真空環境に曝された幼虫はたちまち脱気・脱水され死んでしまう。 申請者らはこれまでに、昆虫の体表面物質(および疑似物質)を試料に塗布し、電子線およびプラズマ照射により体表全面に高気密NanoSuitを形成する新技術により、生物試料を電子顕微鏡の高真空下(10-5-10-7Pa)で生きたまま維持・観察することに成功している(Takaku et al. 2013, Takaku et al. 2015, 特願2012-197927等)。さらに申請者らは、生物が高真空下で生命維持するため、既に4種類の合成液の作成に成功している。初年度では、水を効率よく補足する分子とアミノ酸をブレンドした新規合成溶液SSE(surface shield enhancer)を開発した。SSEは、課題とされていた切り出した組織や生きたままの培養細胞など高真空電界放射走査電子顕微鏡(FE-SEM)でチャージすることなく観察が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
水を効率よく補足する分子とアミノ酸をブレンドした新規合成溶液SSE(surface shield enhancer)は、課題とされていた切り出した組織や生きたままの培養細胞など高真空電界放射走査電子顕微鏡(FE-SEM)でチャージすることなく観察が可能となった。SSEを用いた生物試料と従来法による乾燥させた試料との超微構造のFE-SEMによる形態比較をした。さらに医学・生物学分野への応用において、大腸癌Spheroidを固定後、含水状態のままFE-SEM観察し、癌と正常部位の境界が明確に確認できた。また、メラノーマ培養癌細胞の皮膚組織への浸潤課程を観察し、従来の乾燥させた試料作製法とは異なる含水状態の新たなSEM像が観察できた。 他に、プラズマ装置を用いて大気を封じ込んだまま有機化合物の成膜に成功し、さらに高真空内のFE-SEMで大気を封じ込んだ有機化合物を観察した後、大気圧中へ戻し、有機化合物中の大気が突沸しないで保たれていることを確認できた。 宇宙環境への応用においては、新規SSE合成溶液を用いたNanoSuitによって保護された生物個体・組織、細胞の生存実験を国際宇宙ステーション「きぼう」内・外にて行う目的のため、平成27年度国際宇宙ステーションの「きぼう」利用ファジビリティスタディ(FS)実験テーマ「生命科学分野」を応募申請したが、残念ながら不採択となった。
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Strategy for Future Research Activity |
新規合成溶液SSE(surface shield enhancer)を統合的に活用し、原核・真核細胞を含むすべての生物に対応出来るさらなる合成溶液の開発を目指し、細胞内で起こる極微細な実運動を可視化し、細胞や組織レベルにおける詳細な生命応答へと解析範囲を広げる。また、地上と宇宙空間におけるNanoSuit保護生物の実験をタイアップさせながら研究を展開し、独創的アストロバイオロジーとして生命の起源を探っていく。 [宇宙環境への応用] 昨年度に引き続き、平成28年度国際宇宙ステーション「きぼう」利用ファジビリティスタディ(FS)実験テーマの応募申請を行なう予定である。採択された場合、あらゆる生物・組織を生きたまま高真空で維持する新技術の完成を基に、国際宇宙ステーション「きぼう」内・外にて、NanoSuitで保護された生物個体・組織、細胞の生存実験を行う。実験室内では微小重力環境がもたらす「無浮遊・無沈降」「無対流」「無静水圧」「無容器浮遊」等に注目し、プラズマ照射によるNanoSuit形成、あるいはNanoSuit保護生体に及ぼす影響を調べる。船外プラットフォームでは、宇宙空間を利用し生命維持メカニズムを継時的に観察する。また、プラズマや電子線のみならず各種宇宙放射線を利用した実験を行う。 [極限環境微生物 “extremophile”との生存メカニズムに関する連関の解明] 本研究から得られた宇宙空間での生命維持に関する知見を、地球上の極限環境微生物 “extremophile”と比較検討することにより、宇宙環境と地上極限環境における生命維持機構の関連を解明し、生命の起源が地球外に由来する可能性を探る。 「濡れたままの生物」を高真空で維持可能な新技術は、宇宙生物学分野にこれまでにない新機構を提案するとともに、医学・生物学分野、さらに化学・物理学にもその推進に貢献できることを確信する。
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Causes of Carryover |
プラズマ装置を用いて大気を封じ込んだまま有機化合物の成膜に成功し、さらに高真空内のFE-SEMで大気を封じ込んだ有機化合物を観察した後、大気圧中へ戻し、有機化合物中の大気が突沸しないで保たれていることを確認できた。これにより、合成溶液SSE(surface shield enhancer)が新たにいくつかの有機物質によって合成できる可能性が広がり、新規合成溶液開発のための試薬(糖やアミノ酸など)購入予備費として次年度へ繰り越す必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新規合成溶液SSE(surface shield enhancer)を統合的に活用し、原核・真核細胞を含むすべての生物に対応出来るさらなる合成溶液の開発を目指し、細胞内で起こる極微細な実運動を可視化し、細胞や組織レベルにおける詳細な生命応答へと解析範囲を広げる。また、地上と宇宙空間におけるNanoSuit保護生物の実験をタイアップさせながら研究を展開し、独創的アストロバイオロジーとして生命の起源を探っていく。
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[Journal Article] Direct profiling of the phospholipid composition of adult Caenorhabditis elegans using whole-body imaging mass spectrometry.2015
Author(s)
Hameed S, Ikegami K, Sugiyama E, Matsushita S, Kimura Y, Hayasaka T, Sugiura Y, Masaki N, Waki M, Ohta I, Hossen MA, Setou M
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Journal Title
Anal Bioanal Chem
Volume: 407
Pages: 7589-7602
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant