2014 Fiscal Year Research-status Report
エピジェネティクスで解明する宇宙環境におけるマッスルメモリー
Project/Area Number |
26506021
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
吉原 利典 順天堂大学, 研究推進支援センター, 特任助教 (20722888)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内藤 久士 順天堂大学, スポーツ健康科学研究科, 教授 (70188861)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / ヒストン修飾 / 骨格筋萎縮 / マッスルメモリー / 微小重力環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、運動刺激がDNA配列の変化を伴わない遺伝子情報として筋の核内に記憶(マッスルメモリー)されることで、無重力刺激に対する筋萎縮に関連した遺伝子の発現パターンを変化させ、長期間の微小重力環境曝露による骨格筋萎縮の抑制に寄与するという仮説について、組織および分子レベルでの検討を行うものである。宇宙環境下での骨格筋萎縮抑制に貢献する基礎研究としての科学的エビデンスを提示することで、長期間の宇宙滞在におけるマッスルメモリーの重要性を明らかにすることを目的として遂行する。 初年度は、基礎的なデータを得るため、トレーニングや運動不足が筋萎縮に関連するタンパク質や遺伝子の発現パターンについて検討した。若齢のWistar系雄性ラット22匹を、対照群、運動不足群、トレーニング群に分けた。トレーニング刺激は、傾斜角度0°の動物用トレッドミルを用いて、走速度(10-30m/分)および走行時間(30-60分間)を段階的に漸増させることで、中等度の走運動を週5回の頻度で8週間実施した。運動不足刺激は、ラットを床面積が通常の半分程度の狭いケージで飼育することでラットの行動範囲を制限することにより与えた。 本研究の結果、ヒラメ筋の相対筋重量は、対照群およびトレーニング群と比較して運動不足群で有意に低値を示した。また、ウェスタンブロット法によるヒストン修飾解析の結果、アセチル化ヒストンH3発現量に群間で有意な変化は認められなかったが、リジン残基9(K9)のトリメチル化は運動不足群と比較してトレーニング群で有意に低値を示した。今後は、クロマチン免疫沈降法を用いた塩基レベルでのヒストン化学修飾解析を実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、トレーニングや運動不足が筋萎縮に関連するタンパク質や遺伝子の発現パターンに与える影響について検討を行ったが、初年度に行うべき実験の筋サンプル採取は終了している(n=22)。現在までに、タンパクレベルでの解析は終了しており、加えて次年度に行う予定であったウェスタンブロット法を用いたグローバルなレベルでのヒストン修飾解析を実施することによって一定の成果を上げている。しかし、遺伝子レベル・組織レベルでの解析には多少の遅れが出ており、今後RT-PCR法によるmRNA発現量の分析および免疫組織化学的手法を用いた分析を行っていく予定である。 さらに、次年度に実施する新たな解析方法の確立を目的として、クロマチン免疫沈降による塩基レベルの詳細なヒストン修飾解析に着手しており、そちらは計画以上に進められている。また、次年度に実施する予定である尾部懸垂法を確認・改良することにより、今後安定したデータを取得するための方法を確立させた。以上のことから、本年度内に行うべき研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、運動刺激または運動不足刺激を与えた後、筋萎縮を誘導した際に萎縮の程度や遺伝子発現がどのように変化をするのかについて検討し、筋萎縮抑制に関わるマッスルメモリーが、どのようなエピジェネティクス制御機構によってもたらされるのかについて、ヒストン化学修飾解析から探索する。そこで、特異的なヒストン修飾抗体を用い、ウェスタンブロット法によりグローバルなレベルでのヒストン修飾の変化を捉える。具体的には、筋サンプルからヒストンを精製し、通常の手順でウェスタンブロットを行うことによって、半定量的にヒストン修飾状態を評価する。さらに、クロマチン免疫沈降(ChIP)法を用いた詳細なヒストン修飾解析やヒストン修飾酵素の活性を測定することにより、ヒストン修飾の機能的な面からも検討を行う。具体的には、筋サンプルからクロマチンを可溶化させることで抽出し、修飾ヒストン抗体(アセチル化、メチル化など)を用いてクロマチン免疫沈降を行う。免疫沈降されたクロマチン分画からDNAを抽出し、その濃縮物をRT-PCR法を用いて解析することにより塩基レベルでの詳細なヒストン化学修飾状態を評価する。 また、スペースフライトを模擬した尾部懸垂による筋萎縮モデルを用いて、宇宙環境における筋萎縮に関わるエピジェネティクス制御機構について検討を行い、筋萎縮に関わるエピジェネティクス制御因子の経時的な変化を明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
遺伝子発現解析および組織化学的な分析の手法確立に時間を要したため、実験に関わる消耗品費の使用が予定よりも少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
遅れの生じている遺伝子発現解析および組織化学的な分析を実施するために、次年度の予算に加え、予定通り使用する計画を立てている。具体的には、全ての群のラットからヒラメ筋および足底筋を摘出した後、連続凍結切片を作成し、筋線維タイプを特定するために免疫組織化学染色を実施するため、凍結切片の作成や免疫組織化学染色に必要な試薬や消耗品を購入する予定である。さらに、筋萎縮に関連した遺伝子発現に与える影響を明らかにするため、筋萎縮特異的に働く遺伝子発現について分析するため、筋サンプルからの総RNA抽出試薬や、定量的リアルタイム(RT)-PCR法に用いるAtrogin1やMuRF1、ならびにp53やCaspaseなどのアポトーシスに関わる指標のプライマー・プローブ等を購入する費用に当てる予定である。
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