2016 Fiscal Year Research-status Report
脳神経回路維持の基盤となる睡眠依存性のシナプス可塑性
Project/Area Number |
26507001
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Research Institution | Tohoku Institute of Technology |
Principal Investigator |
辛島 彰洋 東北工業大学, 工学部, 講師 (40374988)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ホメオスタシス / 海馬 / 大脳皮質 / 神経回路 / シナプス可塑性 |
Outline of Annual Research Achievements |
睡眠の重要な役割として、適切な神経結合強度の維持に睡眠が寄与しているとする『シナプスホメオスタシス仮説』が近年注目されている。この仮説では、覚醒中に脳内のシナプス結合は増強され、その後の睡眠中に結合が減弱することで、シナプス結合強度が一定の範囲内に保たれているとしている。多くの研究者達によって、このシナプスホメオスタシス仮説は検証されているが、その研究対象の多くは大脳新皮質であった。本研究では、記憶の中枢として知られる海馬にもシナプスホメオスタシス仮説が当てはまるかどうかを検証するため、海馬CA1領域においてシナプス長期増強の痕跡として知られるCa透過性AMPA受容体が睡眠-覚醒状態依存的に変化するかどうかを調べるin vitro電気生理学実験を行った。 in vitro電気生理実験は、脳スライス標本を作る直前に主に自発的に覚醒していた動物(覚醒群)、人為的に睡眠を妨害した動物(断眠群)、自由に睡眠をとらせた動物(睡眠群)の3群で行われた。実験(パッチクランプ記録)では、シャーファー側枝を電気刺激した際にCA1領域で惹起されるeEPSCがCa透過性AMPA受容体の拮抗薬により影響を受けるかどうかを調べた。覚醒群や断眠群の動物から得られた標本では、拮抗薬によって有意なeEPSC振幅の減少が見られた。一方、睡眠群ではほとんどの標本において、拮抗薬を投与しても振幅に変化は見られなかった。以上の結果は、海馬でも神経回路が睡眠-覚醒状態依存的に再編成されていることを示しており、シナプスホメオスタシス機能が海馬でも働いていることを示唆するものと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度(2016年度)は、海馬においても睡眠-覚醒状態依存的に神経回路の再編成されていることを示唆する結果が得られたが、そのメカニズムを特定するところまで研究を進めることができなかった。メカニズムに迫るため、2017年3月に終了する予定だった本研究を2018年3月まで延長することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
覚醒時にCa透過性AMPA受容体が挿入されるメカニズムに迫りたいと考えている。具体的には、海馬が人為的に活性化された覚醒状態を過ごした動物と活性化されていない覚醒状態を過ごした動物から海馬スライス標本を作製し、Ca透過性AMPA受容体のシナプス後膜への挿入量に差があるかどうかを調べる実験を行う。
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Causes of Carryover |
研究代表者は、本研究の2年目にあたる2015年に所属機関を移動した。移動後、実験システムの再度の立ち上げなどのため本研究の2年目と3年目に計画通り研究を進めることができなかったため、研究期間を1年(3年から4年に)延長することとした。つまり次年度にも研究を続けることになったため研究費を一部残した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の研究の推進方策の欄でも述べたように、今年度はこれまでの3年間の研究で見出した現象(海馬において覚醒時にCa透過性AMPA受容体が挿入されるという現象)のメカニズムに迫る実験を行う予定であり、実験で使用する消耗品の購入に研究費を使用する。さらに、研究成果発表のための学会発表や論文発表にも研究費を用いる。
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Research Products
(9 results)