2014 Fiscal Year Research-status Report
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26511001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
波多野 隆介 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40156344)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江口 定夫 独立行政法人農業環境技術研究所, 物質循環研究領域, 主任研究員 (30354020)
山口 紀子 独立行政法人農業環境技術研究所, 土壌環境研究領域, 主任研究員 (80345090)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射性セシウム / SWAT / 固液分配係数 / 放射性セシウム補足ポテンシャル / 移行係数 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの知見を収集し、SWAT-Csモデルの構築を行った。放射性セシウム(Cs)は土壌中で溶存態、交換態、固定態で存在する。放射性Csは粘土鉱物(とくにイライトや雲母由来鉱物)の特別なサイト(フレイドエッジサイト) に固定され、これらの鉱物は、少量しか存在しなくても強く放射性Csを固定する。一方、溶存態の放射性Csは植物へ吸収され、枯死に伴い土壌中に再放出される。カリウムの増加は放射性Csの固定量を増加させ、植物の吸収過程でカリウムの増加は放射性Csの吸収を低下させる効果がある。 以上から、SWAT-Csモデルには下記の8つの項目を関数化して組み込んだ、1)カリウム固液分配係数、2)溶存態カリウム濃度、3)土壌から植物への放射性Csの移行係数、4) 放射性Cs固液分配係数(Kd)、5)放射性セシウム補足ポテンシャル(RIP)、6)溶存態放射性Cs濃度、7)植物体の放射性Cs濃度、8)土壌の放射性Cs固定。 SWAT-Csを用いて福島県の比曽川流域での実測値によりキャリブレーションを行った結果、流量は融雪期に過小評価し、放射性Cs と懸濁物の予測は一部大きな流出を予測できなかった。時空間スケールの検討とキャリブレーションに用いる実測数の増加が今後の課題とされた。 また、対象流域内の表面排水観測圃場の土壌を深さ別に採取し、放射性Cs濃度、RIP、粒径組成、全炭素及び全窒素含量等を測定した。河川水及び表面排水を増水時等に採取し、溶存態及び懸濁態の放射性Cs濃度を測定すると共にKdを求め、溶存有機態炭素濃度や電気伝導度の上昇と共にKdが低下することを示した。河川水及び表面排水に含まれる懸濁物質のRIPを測定し、土壌のRIPよりもやや高いことを明らかにした。今後、これらの知見のモデルへの組み込みも検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の所期の課題である「SWATモデルへ放射性セシウムのモジュールを組み込みSWAT-Csを構築すること」において、モジュールの構成要素として重要な8項目をリストアップしそれぞれ関数化しSWAT-Csのプロトコルを完成させ、実測値によりキャリブレーションを行うことができた。 SWAT-Csのモジュールのうち固液分配係数、放射性セシウム捕捉ポテンシャルは、土壌の放射性セシウム動態を支配する重要な性質である。野外の観測値の解析から、これらの性質が一定のものではなく、溶存有機体炭素や電気伝導率とともに変動することが確認されたことから、今後のモデルの関数の改善方向が見出された。
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Strategy for Future Research Activity |
開発したSWAT-Csのキャリブレーションの精度を上げる。昨年度の予測精度が低かった理由として、実測データの不足とともに対象流域のスケールとシミュレーションを行うタイムステップの不均衡が理由のひとつと考えられる。対象とする比曽川流域は約4km2の小さな流域で、降雨が河川流量にすばやく影響するため、現行の日ステップを、より短いステップ(1時間、10分)に短縮して精度向上の可能性がある。実測データの不足の解消については、現在も継続して行っているモニタリング結果を適宜モデルに適用することにより対応する。 開発したSWAT-Csでは、植物吸収は、土壌中の溶存放射性Cs濃度に対する植物の放射性Cs濃度の比とし、カリウム濃度の関数として与えたことから、溶存放射性Cs濃度を決める放射性セシウムの固液分配係数の測定が重要である。これまで放射性Csの固液分配係数は、カリウム濃度とセシウム捕捉ポテンシャルから得ていたが、野外の観測値から推定できる可能性もあることから、これを室内で直接実測することを検討する。固液分配係数は溶存態放射性Csに対する交換性放射Csの比であり、溶存態放射性Cs濃度と平衡にある交換性放射性Csの測定を、1)弱く吸着されている交換態(0.1M酢酸アンモニウム抽出)、2)強く吸着されている交換態(1M 酢酸アンモニウム抽出)により行う。 また、現地土壌の放射性セシウムの濃度を決めるためには、土壌の全放射性Cs濃度および放射性Csの固液分配係数とともに、土壌のカリウム濃度が重要である。現地土壌のカリウム濃度に影響を与える要因には、事故前の農地および水田へのカリウム投入量、カリウムの固液分配係数、流域に生息する植生のカリウム移行係数であることから、これらの実測を行う。
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Causes of Carryover |
本事業の研究はほぼ計画通りに遂行したが、そのために必要となった出張旅費、消耗品費等は、農環研では運営費交付金等で賄った。これは、本予算の契約等の手続きが夏以降にずれ込んだため、必要な時期に本予算が執行できなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年は、放射性セシウムの土壌への吸着実験等に必要となる試薬や消耗品、あるいは、10月中下旬に開催予定の国際会議SWAT-Asia IVへの専門家招へい費用等として使用する計画である。
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