2015 Fiscal Year Research-status Report
稲わらの再利用による水田除染後の地力向上に関する基礎研究
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26511004
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
西脇 淳子 茨城大学, 農学部, 助教 (00549892)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅木 直美 茨城大学, 農学部, 准教授 (40571419)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 放射能汚染 / 水田 / 削り取り除染 / 有機資源 / 稲わら / 牛ふん堆肥 / 生産性 / 関東・東北豪雨 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、稲わらによる有機物補給機能を重視した、新たな地力増進手法を開発することを目的とし、2014年度より研究を継続している。2011年の震災時の原発事故により、原発より40km北西に位置する農業の盛んな村であった福島県飯舘村では、村内で削り取り除染や客土が行われている。そのため、以前に蓄積された肥沃な土壌や土壌有機物含量が低減する恐れがあり、昨年度の結果から、現場有機資源の投入による水稲生産性の向上が確認された。しかし、現場の気象条件等の影響も考慮すべきであり、継続的に現場実証試験を行う必要があると考えられた。本年度は、削り取り除染後の水田に、稲わら、または牛ふん堆肥を継続的に投入した後の水稲生育および収量への影響、ならびに、収穫された米への放射性Csの移行に関するデータを取得した。 2014年度からの検討事項である気象条件の影響に関し、2015年度は9月に関東・東北豪雨で氾濫した河川水により、栽培水稲がすべて倒伏するという事態に見舞われた。その後、協力関係者の支援の下、すべての水稲を起き上がらせ、調査を継続した。生育調査は途中で断念せざるを得なかったが、収量調査と線量測定は行った。収量に関しては、有機資源の影響以上に、河川氾濫水によるダメージの大きな区画で低下する傾向が確認された。また、線量に関しては、河川氾濫水による圃場内への放射性物質の流入が観測された。泥水をかぶった稲わらや籾の線量が高い傾向を示したが、玄米にすることで大幅に線量は低下し、国の流通基準値である100Bq/kgを大幅に下回った。 また、来年度には帰村が行われるため、昨年度からの継続課題である農業従事者の被ばくレベル、現場作業中の被ばく線量レベルの引下げ等を目指し、空間線量の把握、曝露量調査を行っていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、稲わらによる有機物補給機能を重視した、新たな地力増進手法開発を目指し、原発事故後の被災地である飯舘村の農地において水稲栽培実証試験を継続している。具体的には、ⅰ) 土壌・空間線量モニタリング、ⅱ) 作物移行量調査、および ⅲ) 土壌特性変化と生育調査を行うとともに、環境リスク研究をリードしておられるベルギー王立原子力研究センターの研究者との連携を計画した。 平成27年度の達成度としては、現場での継続的な実証試験方法を継続し、採取土壌、収穫米の線量測定、収量調査を行っている。また、ベルギー王立原子力研究センターを訪問し、これまでのデータディスカッションを行うとともに、データ解釈や検討事項に関するアドバイスをいただいた。さらに、現場で働く農家の安全確保を目指し、作業時の被ばく線量を把握するため、作業時間と被ばく線量を確認している。 栽培した水稲の茎葉、籾、玄米という部位ごとのGe半導体検出器による精密線量測定を終え、除染後農地で生産された玄米への放射性Cs移行が国の流通基準を大幅に下回ることを確認している。生産性に関しては、洪水による影響を大きく受けたが、線量の高い土砂流入によっても、玄米の線量が 100 Bq/kg 以下であったことが確認できている。リスク評価方法に関しては、リスクと言う言葉への一般市民からの嫌悪感があるとのことを専門家からご指摘を受け、被ばく量調査に修正すべきではないかと現在検討している。継続的に専門家と議論を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、稲わらによる有機物補給機能を重視した、新たな地力増進手法開発を目指し、飯舘村の農地において水稲栽培実証試験を継続している。 成28年度は、将来的な農業従事者の被ばく線量低減につなげるために、作業時の空間線量のモニタリング、個人線量計による被ばく線量のモニタリングを継続する。また、農業従事者のみならず、近隣への汚染拡散低減のために、採取土壌等のGe検出器による測定を継続する。現場における各分野での調査が進行しているため、現場に入って実際に作業している他分野の専門家とのディスカッションや協力、文献精査等を通して放射性物質の動態把握を行っていく予定である。 被ばく線量に関しては、国内外の専門家との議論の結果、栽培作物からみた消費者側のリスクと、農業従事者のリスクに関して、次年度は検討していく予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年度分で92,958円の残高が生じたが、これは変動のともなう海外出張費において格安のフライト等を利用したこと、また洪水被害のために人件費を利用した分析作業が減り、現場入りしているNPOの方々の協力による調査が増えたためである。気象等変動の激しい試験であるため、次年度の旅費等として残しておく方が有益であると判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は帰村農民の生活へ向けた被ばく線量調査も重要性を増すと考えられる。また、最終年度ということもあり、多くの場所で成果公表を予定しているため、上記の残高は旅費や発表費に充てる予定である。
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