2017 Fiscal Year Research-status Report
マウス全半球膜電位伝播波の甘利神経場モデルによる解析
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26520201
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐藤 譲 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (30342794)
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Project Period (FY) |
2014-07-18 – 2019-03-31
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Keywords | 甘利神経場モデル / マウス全半球膜電位計測 / 進行スポット解 / 非局所結合ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
非局所的結合を持つ興奮-抑制系である甘利神経場モデルを用いてマウス全半球の膜電位ダイナミクスを解析しました。具体的には、脳科学の問題として自発活動時の膜電位伝播波の現象分析を、さらに数理科学の問題として神経場の標準モデルを研究しました。英国University College Londonで、マウス全半球神経活動の計測実験を行っている嶋岡大輔(海外研究協力者)は、マウスの睡眠から覚醒までの間の神経細胞膜電位の自発活動に規則性をもった伝播波が存在することを発見し、現象論的な普遍クラスの存在を示唆しました。本研究の特色はこれまで実験で現象を検証することが不可能な抽象モデルであった甘利神経場モデルを、嶋岡の協力を得て実験脳科学に貢献しうる神経場ダイナミクスの標準モデルに昇華させるという点にあります。大域的な神経場で生じる現象についてはこれまで実測できなかったこともあり、典型的な研究例が存在しませんが、先行研究で見いだされた膜電位伝播波は新たな現象クラスであり、標準モデルにより理論的な分析がなされることが期待されます。具体的な研究結果としては、自発活動時の膜電位伝播波の動的な頑健性、スポット解の生成系(パルサー)が長距離結合によって構成可能性であり、このパルサーが結合の長さに比例する特徴的周波数を持つ性質を数値実験で示しました。また空間的に非一様な形を持つ神経場ダイナミクスを考えると、その幾何構造がスポット解の安定性と分裂プロセスに影響することがわかりました。神経場の曲率が一定であるなど、単純な形状の場合には数学的な理論が存在し、ネットワーク表現される非局所結合が非一様な曲率を持った神経場と数理的に同等の効果を持つことがわかりました。これらを踏まえて、より現実的な脳の形状を導入したモデルを構築中です。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書の「研究の目的」に記載した以下の二つの課題(1), (2)については、おおむね順調に研究が進んでいます。 (1)前年度までにデータ解析によって得られたネットワーク関数w(x)を甘利神経場モデルに実装し、孤立進行波が生じることを確認しました。空間的に非一様な形状を持つ神経場の予備的な数値解析を行いました。(2)マウス全半球の大域的神経活動計測実験のデータに基づき、自発活動時の膜電位伝播波の現象論的解釈を行いました。(1)の結果に基づき、空間的に非一様な形状を持つ神経場ダイナミクスを考えると、その幾何構造がスポット解の安定性と分裂プロセスに影響することが数値実験で確認されました。このような幾何形状によるスポット解の分裂に関するモデル解析を行いました。これらの結果により麻酔を外部一定入力とみなした場合、その値の減少に伴い進行波の速度が速まるという仮説をモデル計算で示しました。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、課題(1)、(2)を遂行します。課題1については空間的に非一様な形を持つ神経場の数値解析の論文の出版を準備中です。今年度中に、この形状の効果も含めて、マウス脳全半球膜電位計測実験の結果を考慮し、神経科学的に妥当な現象論の結果を得ることを目標とします。(1)空間的に非一様な形状を持つ神経場の数値解析を網羅的に行う。このような形状とネットワーク構造がダイナミクスに与える影響を、その相補性を念頭に置いて分析します。(2)マウス全半球の神経活動計測実験に基づき、空間的に非一様な形状を持つ神経場における膜電位伝播波の現象論を構築します。
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Research Products
(3 results)