2014 Fiscal Year Research-status Report
探索行動の非線形動力学モデル:眼球運動と触覚探索による検討
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26540065
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
齋木 潤 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (60283470)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上田 祥行 京都大学, 学内共同利用施設等, 助教 (80582494)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 眼球運動 / 触覚探索 / 非線形動力学 / 探索行動 / 乗算的相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
視覚探索における眼球運動軌跡の解析の研究課題に関しては、自然画像に付加されたガボールパッチを標的とする探索課題を作成し、元の自然画像で探索する場合と、その画像を位相ランダム化して元画像と等しいパワースペクトルを持つノイズ画像にして標的を探索する場合の眼球運動を比較した。眼球運動の移動距離の解析の結果、自然画像条件、ノイズ条件ともに先行研究同様の結果が得られ、画像種類によって眼球運動の非線形特性に違いは見られなかった。また、画像の意味が眼球運動に与える影響を明らかにするために眼球運動特性の条件間の差異を探索したが、眼球運動研究で用いられる多くの指標で明確な差は得られず、意味の効果は、通常は用いられていないより複雑な指標に反映されている可能性を示唆する。また、視覚探索研究においては、眼球運動を決定する要因として局所的な顕著性に焦点があてられているが、例えば、物体の個数を見積もるような課題では、画像のグローバルな統計情報(アンサンブル情報)が影響する可能性もある。この点を調べるために、標的刺激の個数とその顕著性を操作して、刺激個数判断課題を行ったところ、局所的な顕著性だけでなく、アンサンブル情報も眼球運動に寄与することが分かった。 触覚探索に関する研究課題では、課題条件の設定と実験デザインを進めた。触覚探索においては、左から右、或いは手前から後といった一定方向に規則性を持って探索するストラテジーが使用される懸念があるため、より、ランダムな探索軌跡を示す実験条件の検討が必要である。その結果、探索刺激数や配置パターンを検討し、規則的な探索が行われにくい条件を見出した。また、その過程で、同一の刺激配置に対して探索時間が促進される文脈手がかり効果が触覚探索で見られるかを検討することに意味があることがわかり、その実験準備も並行して行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全体としては、概ね計画通りに研究が進行したと言える。個々の研究課題を見ると、「視覚探索における眼球運動」については実験データの収集に関しては当初の計画以上に進行した。理論的な解析については、眼球運動距離分布の解析による眼球運動軌跡の非線形性の検討については予定通り進んだが、顕著性マップとの統合の部分に関しては、少し進行が遅れており、これは今年度の課題である。また、当初の計画では明示していなかったが眼球運動の決定に対するアンサンブル情報の影響に関する実験的検討の研究を始めた。こうした研究は過去に例がなく、予備的な結果ではあるが、アンサンブル情報が眼球運動に有意な影響を与えている可能性があり、今度の研究の進展が期待できる。アンサンブル情報の効果に関しても実験データの収集と並行して顕著性マップの拡張による実験結果のモデル化も進めていく。 もう一つの研究課題である「触覚探索」については、若干計画よりも遅れ気味である。今年度は主として行動データの収集が当初計画であったが、触覚探索における手運動の検討にとって適切な実験環境をセッティングするのに予定より時間が必要であったため、現時点ではまだ予備的データが収集できた段階である。しかしながら、触覚探索課題に関しても予備的検討の段階で、触覚探索における文脈手がかり効果を検討することが有意義であることがわかり、その方向での実験準備も進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「視覚探索における眼球運動」については、データ収集を継続するとともに、顕著性マップと非線形モデルを統合したモデル構築に取り組む。非線形物理の専門家である連携研究者とも検討を重ね、理論的な理解を深めるとともに、今年度新たに着想したアンサンブル情報の効果に関する実験についてもモデル構築の射程内におく。27年度は実験研究としては、自然画像とノイズ画像における眼球運動特性の比較実験を継続し、自然画像の意味が眼球運動の如何なる特性に影響しているのかを明らかにし、そのモデル化を目指す。これと並行して、顕著性とアンサンブル情報の眼球運動への寄与を検討する実験を継続し、その結果を説明するために、アンサンブル情報が考慮されていない現在の顕著性マップモデルの拡張を目指す。 「触覚探索」については、本実験を行い、データ収集を行う。手運動の軌跡の解析も行うが、それと並行して、触覚探索における文脈手がかり効果の検討を行う。視覚探索における文脈手がかり効果は我々の行った実験により、眼球運動を行わない場合でも効果が生じることが明らかとなり、運動プログラムの潜在学習というよりは、視覚的なレイアウトの潜在学習である可能性がある。この結果は、瞬時に把握できる視覚的レイアウトを利用できない触覚探索では、文脈手がかり効果が生じない可能性を示唆するが、これを実験的に検討する。健常者を対象とした一連の実験データを収集したのちに、これと比較検討するために、視覚障害者、先天盲者を対象とした触覚探索課題も実施する。
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Causes of Carryover |
実験協力者への謝金の分に関して、当初の予定よりも協力者数が少なくなったことと、研究協力者への謝金として予定していた分が、勤務時間が当初予定よりも少なくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度実施できなかった分の実験の協力者への謝金として繰り越された分の額を使用する。
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