2015 Fiscal Year Research-status Report
脊椎動物の社会認知能力の起源の検討:魚類の顔認知、鏡像認知、意図的騙しの解明から
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26540070
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
幸田 正典 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (70192052)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自己鏡像認知 / 顔認識 / 社会的認知 / 自己認識と他者認識 / 視覚刺激 / 個体識別 / カワスズメ科魚類 / モデル実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
H27年度はカワスズメ科魚類の顔認知およびホンソメワケベラ(ホンソメ)の自己鏡像認知について成果が上がった。ホンソメでは、実験結果から実際の多個体と自己鏡像への反応とは大きく異なることが明らかとなった。特に実際の個体の場合確認行動が全くでないこと、攻撃が2週間後でも完全になくならないことなど複数点で大きな違いが認められ、本種が鏡像と実際の魚を区別していることが明らかに示された。また、確認行動が鏡像にのみでることから、他の動物で知られるcontingency behaviorであることがさらに支持された。 カワスズメの顔認知研究は、一昨年度のものを含め、論文公表とプレスリリースをした。魚類が顔の模様で個体識別するとのはじめての報告に対し、NHKや大手テレビ局、ラジオなどでの特集扱いでのニュース報道がなされた。また、全国紙のほぼすべて、多くの地方新聞にも記事が掲載された。我々は、同様な手法で南米産のペア繁殖魚ディスカスについても同様な実験を行い、顔だけでなく全身にも同様の模様があっても、やはり顔の模様で個体を識別していることが明らかにし、投稿論文はすでに受理されている。 さらに、最初の実験魚プルチャーの顔認識がヒトや類人猿、いくつかのほ乳類で知られる顔認識様式との関係について検討した。実験魚に対し「倒立効果」を調べたところ、顔と水槽風景では顔のみに倒立効果が確認された。この結果はチンパンジーなどの「顔認識神経」を伴う顔認知様式とよく似た結果であり、魚も顔認知は顔の個々のパーツではなく、顔全体として素早く認知している可能性がある。この意味はきわめて大きく、脊椎動物の社会認知の起源が一気にさかのぼれる可能性もある。現在例数を増やしての実験を行っている。また、観察魚がはじめて出会った相手のやはり顔をよく見ていることも示されつつあり、ヒトやチンパンジーとの類似性が注目される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
魚類における他個体の顔認識が大きく系統が異なる魚種においても同様になされていることが、デスカスで実証され、さらに予定外のタンガニイカ湖産魚類の異種間でも(プルチャーとオルナータス)同様におこっていることが示された。これらなどから、視覚認識の場合、定住性のある社会性魚類では顔認知がかなり一般的である可能性が高いことが示された。 また、この認識様式が、顔写真の倒立実験から、顔の模様の認識が素早く、魚になった顔の認識が他の写真意比べ遅れるという「倒立効果」が示されていることの成果は予想はしていたが、ヒトによく似た倒立効果を魚類で確認される意義はきわめて大きいと言える。魚類における顔認識の確認はまったく世界に先駆けての成果であるが、倒立効果の発見は、世界でもおそらく誰も予想もしていないさらに大きな成果である。ヒトの顔認知との類似性が確認できれば、今後は脳神経科学分野での展開につながる可能性もある。ヒトの顔認知は大きく2つの回路、扁桃体などの大脳基底核を経由する「動物的回路」(危険なものなどを素早く認知する)と大脳新皮質の領域を巡り表情を読み取る「ヒト的回路」が知られており、今回我々が見いだした魚類の顔認知は「動物的回路」に相当する可能性がある。そうすると、この社会認知の脊椎動物の系統発生は、まったく予想外の魚類段階に達する可能性があり、我々はこの仮説を最終年度から検討を始めたいと考えている。 また、ホンソメの自己鏡像認知も、ほぼ全研究が一段落し、いずれの結果も本種の自己鏡像認知を支持するものばかりであり、すみやかに投稿したい。現在自己鏡像認知は一部の社会的ほ乳類、鳥類ではカラスのみで知られており、この成果そのものも世界の常識を覆すものとなる。このように、昨年度の成果はいずれも素晴らしいものである。
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Strategy for Future Research Activity |
顔認識での「倒立効果」については、プルチャーでの実験を継続発展させさらに例数を増やす。これまでの実験結果はビデオ撮影として記録されており、より正確を期すために、ブラインドテストを確実に行っていく。さらに、倒立効果だけではなく、顔のパーツを変化させた刺激など、これまでヒトでなされている様々な手法も導入し、検討していく。我々は、おそらくヒトや類人猿での結果とかなり類似した成果が出るものと予想かつ期待している。 やはり顔認知が確認された南米産カワスズメ魚デスカスでも同様な倒立効果が見られるのかどうかを検討する。我々はデスカスにおいても倒立効果が認められると予想しているが、そうなれば魚類での顔認識様式の一般性にも言及することが可能になる。この顔認識での倒立効果の検証に基づき、脊椎動物の顔認知の進化について、「動物的回路とヒト的回路」を区別しつついくつかの仮説を斉唱したいと考える。「動物的回路」はヒトでは自閉症の問題との関連も示唆さており、我々の成果の与える影響はかなり大きなものになると考えている。来年だけではなく、この世界的な成果を基盤に、脊椎動物の顔認識について世界をリードする研究を目指していく。 ホンソメの自己鏡像認知に関連し、付随する複数の現象についても公表していく。我々はこれまでの予備観察や予備実験からこの自己鏡像認知は、ホンソメに限られるものではないと考えている。同様な方法で、社会的認知の発達したプルチャーを材料に検証実験を行う。
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Causes of Carryover |
27年度での未執行予算学は、1万1千円あまりである。残金は少なく実質上はほぼ全額を使ったのに近い。28年度での使用は十分に可能である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度である本年度は、旅費に不足が生じる可能性が高い。昨年度の繰り越し分として、旅費に充てたいと考える。
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Research Products
(11 results)
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[Presentation] 魚類と鳥類の嘘2015
Author(s)
幸田正典
Organizer
日本心理学会
Place of Presentation
名古屋国際会議場 (名古屋市熱田区熱田)
Year and Date
2015-09-07 – 2015-09-07
Invited