2014 Fiscal Year Research-status Report
フリップ・フロップ応答を示すフォトクロミック反応系の開発
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26540126
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
石黒 勝也 山口大学, 理工学研究科, 教授 (40202981)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | フリップフロップ / フォトクロミズム / 光電子移動 / 酸性度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、パルス光照射により一回ごとにOn-Offを繰り返すflip-flop型フォトクロミズムを、カルボン酸が置換したノルボルナジエンのクアドリシクランへの光異性化と、クアドリシクランの一電子酸化による逆反応を用いて実現させる目的としている。この実現には、(1)カルボン酸の酸性度に大きな違いがあり、水-油層混合系において、ノルボルナジエンが水層に、クアドリシクランが油層に溶解するような基質と溶媒の組み合わせと、(2)油層のみに存在してクアドリシクランを選択的に異性化させることができる光増感剤の開発が必要となる。 現時点で、エステルを導入した基質においてノルボルナジエンとクアドリシクランの酸性度に約2の違いをもつ化合物が見出され、また、ヘキサンのような溶解度の低い溶媒を油層とすることで、エチルエステルをもつノルボルナジエンが主に水層に溶解するのに対し、異性化したクアドリシクランは主に油層に分配されるような反応系が構築され、(1)についてはある程度達成された。しかしながら、充分な分配率を達成できるような低濃度の条件で、ヘキサンのような低極性の溶媒において光増感一電子酸化反応を実現するのは容易ではなく、その条件に適応できる(2)の増感剤が見出されていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
酸性度に大きな差をもつノルボルナジエンークアドリシクラン光異性化系については実現されたが、油層に用いる溶媒の溶解度が高い場合にはノルボルナジエンもある程度油層にも溶解してしまい、充分な分配率が得られないことが明らかとなった。そこで溶解度の低いヘキサンを用いることで、ノルボルナジエンが水層、クアドリシクランが油層にそれぞれ90%以上存在するような基質と溶媒の組み合わせが見出されたが、その条件では、油層のみに増感剤が存在してクアドリシクランを光電子移動により異性化させることができるような反応系の構築が非常に困難であることが明らかとなった。現在は、酸性度の差が更に大きくなると期待されるシアノ基を導入した基質の合成を検討しており、ベンゼンなどの溶解度の大きな溶媒を用いても充分な分配率が実現できれば、通常の電子受容型増感剤を用いても油層での逆反応が可能となると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
論理演算回路を考える上で最初に取り上げられるFlip-flopを、フォトクロミズムを用いて分子反応系で実現できれば、情報処理や演算を指向した機能性分子素子への展開が期待される。また、電子移動を連鎖反応とすることで一光子から多数の分子を変換することができれば、数学的に「ロジスティック写像」と表現される変化が実現でき、条件を選ぶことによりカオスが発現する可能性がある。このためには、溶媒や添加剤など反応系を工夫し、光増感反応の効率を上げる必要がなる。また、AとBの組成比がほんの僅かに偏っている状態から、パルス光照射を繰り返すことにより存在比の差が拡大していくような反応系の設計ができれば、自己増殖・自己修復の意味で、人工生命の概念に通じるシステムが構築できると期待される。
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Causes of Carryover |
目的とする反応系の実現が達成できなかったため、当初計画した振動フォトクロミズムの実験が初年度にできず、発表にいたらなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在、実現のための基質の開発を行っており、反応系が構築できれば、計画していた論理演算回路につながる実験を行う予定である。
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