2014 Fiscal Year Research-status Report
2次元光双安定素子を用いたソリッドステートナチュラルコンピューティング
Project/Area Number |
26540129
|
Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
礒島 隆史 独立行政法人理化学研究所, 伊藤ナノ医工学研究室, 専任研究員 (40271522)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 光双安定素子 / 波面伝播 / ポジティブフィードバック / 相転移 / 熱拡散方程式 / 有限要素法 / 迷路探索 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、従来のナチュラルコンピューティングの実験的実装における問題を解消しうる新規媒体として、光と熱による固体素子の状態変化に基づく「ソリッドステートナチュラルコンピューティング」を提案する。2次元的な広がりを持った光双安定素子における2状態間の遷移領域の空間的伝播(波面伝播)を用いて、理論と実験によって波面伝播ならびにそれを用いた迷路探索などのナチュラルコンピューティング動作を実証することを目的とする。また外部フィードバック系と組み合わせることで生物の神経系と同様のパルス伝播やカオスの発生といった機能の実現を目指す。 初年度は、最も構造が単純で動作の確実性が見込まれる、熱伝導-温度相転移型の素子について検討を行った。この素子は液晶や低融点有機材料といった温度依存相転移材料と光吸収層の組み合わせを用いる。光共振器がないため白色光などでも動作し、またセル作製精度を必要としない(セル厚にあまり依存しない)という特長があるため、最初の動作検証に適している。 材料としては約35℃で相転移する液晶5CB(4-cyano-4’-pentylbiphenyl)および約32℃で融解する有機低分子材料eicosaneを検討した。 まず理論的シミュレーションとして、熱拡散と温度依存透過率変化を組み入れた非線型偏微分方程式を有限要素法によって解いて、素子構造(セルの厚さなど)や動作条件(照射光強度や環境温度など)の影響を定量的に検討した。セル厚0.2mm、セル材料として熱伝導度の小さいアクリルを用い、0.1W/cm2オーダの照射光強度でトリガ可能な双安定状態が実現でき、波面伝播速度は0.1mm/sのオーダとなることを明らかにした。この知見に基づきセルを試作して5CBを充填した試料を試作し、プロジェクタ縮小投影系を仮組みして、波面伝播が起きることを実験的に確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画では、初年度は以下の項目を実施することとしていた。 1. 熱伝導-温度相転移型素子の理論的シミュレーションと設計 2.パターン光照射実験系の構築 3. 熱拡散型素子の試作と動作検証 = 波面伝播の実証および特性評価と迷路探索実験 このうち1.は概ね完了したものの、適切な動作条件の探索に想定より時間がかかった。これは使用する材料の基本特性(特に相転移前後の光透過率)について実測を行ってその結果をシミュレーションに反映することを試みていたためである。このため1.の結果を元に実施する2.および3.にも遅れが生じ、2.については暫定的に研究室所有のプレゼンテーション用プロジェクタを流用して構築し、これを用いて3.のうち波面伝播動作の確認までを行った。迷路探索実験については実験条件の詰めを行っている段階であり、第2年度の早期に実験に取り掛かれる見込みである。 このような状況を鑑み、達成度区分としては「(3)やや遅れている。」とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
第2年度(平成27年度)は、まず初年度に引き続き熱拡散型素子の迷路探索実験を実施する。パターン光照射実験系については、これまでの実験結果から迷路の経路幅を5mm程度以上とする必要があることがわかったため、投影面積を50mm×50mm以上に拡大したものを構築する。 これと平行して、第2年度当初予定(以下の番号は申請書の研究計画・方法欄記載のもの)の 1. 外部不応性フィードバックおよび遅延フィードバックを含んだシステムの理論的シミュレーション、および 3. ハイブリッド型パルス伝播素子の理論的シミュレーションと設計 を実施する。 迷路探索実験と上記のシミュレーションの進捗を受けて 2. 外部不応性フィードバックによるパルス伝播および外部遅延フィードバックによるカオス発生の実験的検証、および 4. ハイブリッド型パルス伝播素子の試作とパルス伝播動作の実験的検証 を実施する予定である。さらに年度後半に 5. レーザー光源を用いたパターン照射実験系の構築を開始する予定である。
|
Causes of Carryover |
【現在までの達成度】(「(3)やや遅れている。」)で記したように、熱伝導-温度相転移型素子の理論的シミュレーションと設計において、適切な動作条件の探索に想定より時間がかかったため、この結果を元に実施するパターン光照射実験系の構築にも遅れが生じた。このため主要購入予定物品であったプロジェクタを年度内に調達できなかったこと、試作素子の数量が少なくそのための消耗品の購入も少なかったことが、初年度未使用額が生じた主たる要因である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度で未調達であったプロジェクタや素子作製のための消耗品は第2年度初期に購入する予定であり、次年度使用額は当初計画通り使用する予定である。
|
Research Products
(4 results)