2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26550001
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
杉山 慎 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (20421951)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カービング氷河 / サイドスキャンソナー / 湖 / 海洋探査 / 環境変動 / 国際研究者交流 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロジェクト二年目にあたる2015年度は、グリーンランド、パタゴニア、南極半島にてサイドスキャンソナーを運用し、カービング氷河末端部の水中観測を行った。また、氷河前の海洋、湖において、水温、塩分、濁度などを測定し、人工衛星データを使った解析では氷河末端変動と流動速度を測定した。 2015年7月にはグリーンランド北西部サン氷河において、カービング端から数10メートルにまで近寄ってサイドスキャンソナー観測をおこなった。至近距離からの観測によって水中の氷壁から反射が得られた。しかしながら船の揺動が激しく、氷壁形状の詳細ははっきりしない結果となった。 次に、2016年1-2月には南パタゴニア氷原グレイ氷河前の湖にてサイドスキャンソナー観測を行った。ここでは氷壁から20-30メートルまで接近して、水中の氷壁を明瞭に観察することに成功した。ソナーの反射データは水中で氷が大きく前にせり出していることを示すものであり、そのような測定結果はこれまでに報告されていないものである。氷壁前でロープに固定したCTDを水中に降下させて水深を測定したところ、水中深さ約50mの地点で、氷河から前方に突出した氷の存在を確認した。水中に氷が張り出すことで水との接触面積が増え、氷の融解速度に影響を与えている可能性がある。 2016年2月には南極半島リビングストン島ジョンソン氷河前の海洋で、サイドスキャンソナーの観測を試みた。しかしながら海洋が非常に浅く(10-20m以下)、有意義な観測データは得られなかった。 上記の3地域では、氷河前の海洋と湖にて水温、塩分、濁度、溶存酸素を測定するとともに、サンプリングによる酸素水素同位体分析を実施した。これらのデータを使って、氷河融解水の存在割合の計算を進めており、現在その精度向上を検討中である。また人工衛星データから氷河の末端位置変動と流動速度を測定し、その差分から末端消耗量(カービング+水中融解)の推定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的を達成するための最も有力な手段として、サイドスキャンソナーによる水中での氷壁観測を検討してきた。過去二年間において、パタゴニア、グリーンランド、南極のカービング氷河においてサイドスキャンソナーを用いた観測を実施し、これまでほとんど前例のない水中での氷壁直接観測データが得られつつある。当初の見込みと比較して、使用するソナーの測定範囲が狭く、氷壁の詳細な形状測定は容易ではない。また、氷山の状態やカービングの危険から氷河前縁に十分近寄ることが難しい場合が多く、同じ氷壁を複数回測定してその形状差分から融解量を測定する試みは成功していない。しかしながら、パタゴニアのグレイ氷河では非常に明瞭な反射像を得ることに成功し、またその結果から、水中で氷壁が前方にせり出している、という新しい知見が得られた。 サイドスキャンソナーに加えて、カービング氷河前縁の海洋および湖でCTDを運用し、水温、塩分濃度、濁度、溶存酸素などの測定データが得られている。これらの海水・湖水特性に基づいて、水中融解量の定量化を進めているところである。CTDによるデータ収集は当初の計画よりも順調に進んでおり、今後計算手法を工夫して精度を上げることにより、水中融解量測定の有力手法となると考えている。 以上の観測と解析の成果は、すでに国内外の学会でその一部を発表済みである。またスイス、スペイン、チリ、アルゼンチンの研究者との連携、共同研究も順調に進んでいる。以上の研究進捗状況から鑑みて、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでに取得したサイドスキャンソナーの反射像を解析し、水中の氷壁形状を詳細に把握することを目指す。特に、サイドスキャンソナーの製造販売メーカー(広和)、および反射像を実空間に投影するソフトウェアを開発するメーカー(ビジオテックス)の協力を得て、氷壁形状を定量的に評価する技術を開発する。特にパタゴニア・グレイ氷河で得られた氷壁形状はこれまでに報告されていないものであり、カービング氷河末端の水中融解メカニズムを理解する上で重要な知見といえる。グレイ氷河では、測深用のソナーを斜め下方向に傾けて、氷壁からの反射を測定する新しい試みを行った。このソナーデータを援用することで、サイドスキャンソナーで確認された氷壁形状をより詳しく解析する。 海水・湖水特性を用いた解析に関しては、引き続き融解量推定の精度向上を目指す。近年次々と新しい手法が開発、発表されている研究領域でもあり、国内外の共同研究者とも連絡をとりながら、十分な精度をもった推定手法の開発を目指す。また、研究代表者が関わる他プロジェクトでは、H28年度にグリーンランドとパタゴニアで観測を計画しており、これらのプロジェクトで得られる結果とも比較検討を行いながら、水中融解の季節変化、経年変動に関する解析を進める。 以上の研究成果をとりまとめて、H28年9月の雪氷学会、11月の極域科学シンポジウム、H29年2月の国際雪氷学会において発表する。
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Research Products
(15 results)