2015 Fiscal Year Research-status Report
弥生時代穀物類の粉食の可能性に関する文化財科学的研究
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26560142
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
杉山 浩平 東京大学, 総合文化研究科, 特任研究員 (60588226)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 弥生時代 / 穀物利用 / 残存デンプン粒分析 / 土器のススと焦げ / 炭素・窒素安定同位体分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、その前半を前年度後半にサンプリングを行った残存デンプン粒分析の顕微鏡観察に充てた。後半は新たに残存デンプン粒分析のために資料のサンプリングを行った。また当初、食性の全体を掴むために土器付着炭化物の炭素・窒素安定同位体分析を予定していたが、土器付着炭化物よりも人骨の安定同位体分析のほうが直接的に食性を検討することができるので、分析対象を変更し進めた。弥生土器のススと焦げの観察は主に4カ所の遺跡にて観察を行った。 残存デンプン粒分析は、神奈川県下の遺跡を対象として昨年度後半にサンプリングを行ったプレパラートの観察を行った。その結果、弥生時代前期の資料からは、円形から楕円形を呈するデンプン粒が検出され、穀物類に特徴的な多角形を呈するデンプン粒が明確なものはきわめて少なかった。本年度は北関東(埼玉県・群馬県)の遺跡を対象として、サンプリングを行った。実施した遺跡を明記する。群馬県:沖Ⅱ遺跡、埼玉県:須釜遺跡・池上遺跡・小敷田遺跡・北島遺跡・飯塚南遺跡・明花向遺跡・大和田本村北遺跡。現在のところ、検鏡が終了したのは沖Ⅱ遺跡のみである。沖Ⅱ遺跡の石器からは、穀物類の加工が想定される特徴的なデンプン粒が検出された。 人骨の炭素・窒素安定同位体分析による食性の変化に関する研究では、発掘調査報告書での資料調査と所在の確認、そして分析の可否について、所蔵機関に問い合わせを行った。関東地方の弥生人骨をおよそ30体程度確認することができた。この分析は平成28年度に実施する。 弥生土器のスス・焦げの観察は、埼玉県池上遺跡・静岡県宮ノ前遺跡出土資料の観察を行った。池上遺跡では総じて甕形土器の内外面に付着炭化物がつく割合が低い。そのほか、比較資料として、鳥取県の目久美遺跡・長瀬高浜遺跡・青谷上寺地遺跡、石川県八日市地方遺跡の観察を行った。後者2地域における付着物との差が明瞭であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
残存デンプン粒のプレパラートの検鏡はやや遅れがちであるが、平成28年度は南関東地方の弥生時代中期後半資料の観察を予定しているのみであるので、H28年度の夏までに終えることができれば、問題ない。炭素・窒素安定同位体分析も当初の予定通り、最終年度に分析を予定しているので、資料の収集と借用の交渉を平成27年度から行うことができ、順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は本研究課題の最終年度に当たる。そこで秋をめどに各種分析を終え、その後研究のとりまとめを行う予定である。本研究では、弥生時代の残存デンプン粒分析と人骨の炭素・窒素安定同位体分析を数多くこなす予定であり、これまでの研究にはない、弥生時代における食物利用のあり方を明らかにすることができる可能性がある。そこで、平成28年度後半は、成果を書籍として刊行することを目標として、まとめを行っていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
研究計画当初は、炭素・窒素安定同位体分析の実施を付着炭化物で行う予定でいた。この分析のための資料の収集に伴う観察で研究協力を学生に依頼し、その謝金と一部資料の分析の実施を考えていた。しかし、対象を人骨に変更したため、謝金の支払いがなくなり、分析の実施も平成28年度にずれ込んだため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記繰り越した助成金については、より多くの資料を対象とした炭素・窒素同位体分析において、その経費として使用する予定である。また、当初の予定では研究成果報告書は、簡易製本を考えていたが、残存デンプン分析ならびに人骨資料において多くの資料を分析することができるため、より広く成果を公表するために出版社での刊行を計画している。その印刷費に一部を充てる予定である。
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